恋人のやり方がわからない

 さて、土曜日、朝の十時、十分前です。かなり早く家を出たつもりだったのですが、集合場所の駅にはすでに悠介くんがいました。はっ、早い!
 今日の悠介くんは、濃いグレーのジャケットを着ていました。やっぱり、かっこいい。
 一方の私は、ベージュがかったグレーのカーディガンを着てきました。これも例によってオーバーサイズで、パンケーキデート後の休みの日に、服屋をハシゴしてなんとか見つけたものです。
 私が手を振ると、悠介くんはいつものように小さく手を上げてくれました。
「おはよう、悠介くん」
「おはよ、律」
 いつもより挨拶が丁寧だ……!
 私が「今日の服いいね」と言うと、悠介くんは「これはちゃんと、俺の小遣いで買ったやつ」と微妙に誇らしげな顔をして言いました。それは、誇っていいと思います!
「行こうぜ」
「うん」
 私たちは改札に向かって、歩き出しました。
 それから電車に乗り、目的の駅に着いて、さらに少し歩き……無事水族館に辿り着くことができました。そして無事、事前に買っておいたチケットで入場することができました。(実は正しくチケットが買えていたか、少々不安だったのです。)
「入り口、青くない?」
「青いな」
「水族館ってこんな青かったっけ」
「この水族館が特別青いんだろ」
「でも青すぎない?」
「青すぎだな」
 気づけば私たちは、サンゴやらクマノミやらが泳ぐ、賑やかな水槽にいました。
「悠介くん、綺麗だね」
「そうだな」
「あの子とか、可愛い」
「どれだ?」
「あの青い子」
「確かに」
「……」
「……」
「……」
「……あいつ顔面白くね?」
「思った」
 それからもう少しだけ歩き……悠介くんが目を止めたのは、サメのいる大きな水槽でした。
「サメってなんであんなかっこいいんだろうな……」
「悠介くん、サメ好きなの?」
「今好きになった」
「今……?」
「サメなんか、こう、まじまじ見ることないだろ……」
「まあ、確かに……」
「今かっこいいのに気づいた」
「なるほど……?」
 私も悠介くんに合わせて、サメに目をやりました。確かに他の魚たちよりシュッとしていて、かっこいい、かも……?
 私はしばらくサメを眺めたのち、チラリと悠介くんを見ました。本当に、なんの気なしに見ただけでした。なのに。
 あ。
 悠介くんの目はやけにキラキラとしていて、それは、熱心な学者のようにも、無邪気な子供のようにも見えて……。
 ……。
 ……壊したくないな。
 私はそっと、水槽に視線を戻しました。