恋人のやり方がわからない

 しかし何かをやると言っても、何をやればいいのか……。
 ……。
 やっぱり、スマホでしょうか。
 私は小さく「ちょっとベッド寄りかかるね」と言って、ベッドの角に背中を預けると、スマホのパズルゲームを開きました。なんとなくインストールしたもので、そこまでハマっているというわけでもなかったのですが……。
 チラリと前を見ると、悠介くんもスマホを見ていました。しかし悠介くんも顔を上げ、私と目が合い……それから急にソワソワし始め、「やっぱそっち行ってもいいか?」と言ってきました。
 ダメなわけがない!
 私たちは二人で並んで、ベッドに寄りかかりました。二人で並んで、スマホをいじります。
 ……。
 ……気になるな。
 いや、見ちゃ悪いか。
 ……。
 ……。
 ……いや、かなり気になる。
 チラリと横を見ると、悠介くんはスマホで漫画を読んでいました。妙に細い線の絵柄で、男子高校生らしきキャラクターが二人、手を繋いでいるシーンで……あれ、悠介くん、前に漫画はあまり読まないと言っていませんでしたか?
 ……。
 ……何を読んでいるのか、聞きたい。
 でも、人にスマホを見られるのは、多分、かなり嫌だろう。自分なら嫌だ。
 私はバレないうちに、さっと視線を戻しました。
 今はパズルに集中しよう。パズルに……。
 ……。
 ……。
 無理だ! 気になる!
 私は耐えきれず横を見ると、バチっと目が合ってしまいました。
「あ、えっと……」
「すまん、集中できなくて……」
「あっ、そうなの……?」
「俺、なんか、こういうの向いてないかも……」
 そう言うと悠介くんは、恥ずかしそうに、手を頭の後ろへやりました。
 いやそれは、私だって、同じですよ……。
「俺も向いてない……」
「そうか……?」
「俺、隣にいると、悠介くんのことが気になっちゃう……かも……」
「……そうか」
 悠介くんは照れたように目線を泳がせると、少しだけ迷ったように口を開きかけては閉じて、それから、言いました。
「キスしたい」
 ……。
 ……ダメなわけが、ない。
「……いいよ」
 私と悠介くんは小さく身体を起こして、そっと唇を触れさせました。それから何度も離して、触れさせて……。
「あっ……」
 ずるりとバランスが崩れて、私の背中は床に小さく叩きつけられました。それに覆い被さるように、悠介くんは見下ろしていて……。
 ねぇ、これって。
 これって。
 これって、まるで……。

 怖い。

「律……」
「悠介く……」
「律、震えてる」
「えっ……」
 気がつけば私の腕は、ガタガタと震えていました。
「悪かった、その……」
「あ……いや……」
 悠介くんはそっと起き上がり、私の手のひらを握ってくれました。
「これなら平気か……?」
「うん」
 私はそのまま、ぎゅっと握り返しました。
 その手はやけに温かくて。
 ああ、よかった、いつものだ。
 いつもの悠介くんだ。
 いつもの自分だ。

 ……それよりも。

 なんだったんだ、あれは。

 ……。

「なぁ、俺んちバスケットゴールあるんだけど……」
「へっ?」
 いきなり、何……!?
「バスケットゴール……?」
「いや、バスケなら平和かなって……」
「……」
「なんか、このままなのも嫌かな……みたいな……」
「……」
「悪い、変なこと言っ……」
「やりたい」
「えっ」
「やろう、バスケ」
「……ああ」
 悠介くんは頷くと、「じゃあ、こっちだから……」と、のそのそと立ち上がりました。私ものそのそとついていきます。いつの間にか心臓は、いつものように静かになっていました。
「言ってたやつ、これ……」
 靴を履いて庭に出ると、悠介くんの言うとおり、本当にバスケットゴールがありました。いや、初めて来た時も、少し見えていましたが……。
「本当にあったんだ……」
「ああ。不思議だよな」
 悠介くんがそれを言うのですか。
「なんかボール二つあるから、適当に投げて遊ぼうぜ」
「うん」
 そうして本当に、文字通り適当に投げて遊びました。
 あ、入った。
 外した。
 また入った。
 また入った。
 あれ、意外と上手い?
「お前、上手いな……」
 横から悠介くんが言ってきました。意外そうに目をパチクリとさせています。
「俺も、自分が上手いの初めて知った……」
 私も言いました。すると悠介くんはわずかに口角を上げ、
「俺も上手いけど」
 と、小さく歯を見せて笑いました。
 あ、その笑い方、初めてでは……?