恋人のやり方がわからない

 さて時間は飛び、今日は土曜日の朝です。パンケーキの日です。
 朝の九時半の、さらに十五分前から、私は駅前でソワソワし続けていました。
 早く来すぎたかな。
 いやでも、家で待っている方が落ち着かなかったし。
 服は濃いグレーのカーディガンにしました。サイズも少し大きめで、袖も少し長めです。
 実はこの服、三日かけて検討したものでした。水曜日から金曜日にかけて、私は悠介くんに、「ごめんね、家の用事があるから」と一緒に過ごすのを断り続け、一人、服屋に向かったのです。なにしろ私には、休日に誰かと遊ぶ機会というものがありませんでしたから、まともな私服というのを持っていなかったのです。知識も経験もない中、やっとの思いで見つけ出したのが、このカーディガンなのでした。
 悠介くんに、かわいいと思ってもらえるだろうか。
 ……。
 かっこいいでも、いいですけど。
 そうしてなんとなくスマホを眺めていたら、
「悪い、遅くなった」
 と、背中側から悠介くんの声が聞こえてきました。
「悠介くん! 遅くなったって、まだ十分前……」
 言いかけて、私は固まってしまいました。
 悠介くん、かっこいい……!?
 目の前の悠介くんは、紺のジャケットと白いTシャツを、まるで大人の男の人のように、サッと着こなしていました。
 高校生って、こんなの着ていいのですか……!?
「ゆっ、悠介くん、かっこいいね……」
「ああ、これ……父さんの借りてきた」
「お父さんの……!?」
「俺ちゃんとした服持ってないから……父さんに頼んで、一番いいやつ貸してもらった……」
「そうだったんだ……」
「あの、変か?」
「えっ」
 変?
 いやいやこの人は何を言っているのでしょうか!
「変なわけないよ! すごい似合ってるし……」
「本当か……?」
「……かっこいい」
「……!」
 悠介くんはパッと顔を明るくさせると、「よかった」と安心したように言いました。
「そういう律は、やっぱおしゃれだな」
「え?」
 やっぱおしゃれ?
「俺、おしゃれに見えてるの?」
「……? 見えてるけど……」
「俺、この服、三日かけて選んだんだよ!」
「そうなのか……?」
「家にまともな服なくて……だから、水曜からずっと、放課後に服屋ハシゴして、どうにか見つけたんだよ……」
「……! そうだったのか……じゃあ用事があるって言ってたのは……」
「服買うため……」
「……!!」
「悠介くんとのデートは、ちゃんとした格好で行きたかったから……」
「……!!!」
 そう言うと、悠介くんは露骨に嬉しそうに「俺のために……」と口元を緩ませました。ああもうなんですかそれ。そんな顔をされたら、こっちまでニヤニヤしてしまうではないですか。
「ちょっと早いけど行こうぜ」
 悠介くんは笑った顔のまま言いました。
「うん」
 私はもはや、頬が緩んでいくのを隠しませんでした。
 悠介くんも笑っていることですし、いいでしょう……。