恋人のやり方がわからない

 ……なんて、決心してはみましたが、「やらない」決意をすると、かえってそればかりが気になってしまうものです。
 今日は見ないぞ、今日は見ないぞと思いながら、文庫本の文字だけに集中し、五十嵐くんのものらしき足音が聞こえても知らないフリをし、そうして、授業が始まった後になって、ようやく謎の緊張から解放されるわけです。
 後ろの席にプリントを回す時も危険です。なぜって、後ろの後ろの、さらに斜め後ろの窓際には、五十嵐くんがいるのですから。プリントを渡す時に振り返って後ろの席の人を見ることはあっても、五十嵐くんにだけは、決して目線を向けないようにするのです。視界の端に五十嵐くんが映った瞬間、サッと、相手か自分の机か、どこでもいいのですが……まったく別のところに意識を向けるのです。
 ……。
 一体何をやっているのでしょう、私は。
 休み時間、ついに私は、文庫本作戦をやめ、寝たフリ作戦に切り替えることにしました。物理的に突っ伏してしまえば……どうやっても見ることはできないというものです。五十嵐くんは喋りませんから、見ることさえしなければ大丈夫というもの……。
「五十嵐くーん、これ先生からー」
「おう」
 ……喋った。