さて、この種のものは、一度気づいてしまうと、気になって仕方がなくなってしまうものです。
授業の合間の休み時間、Bくんたちが、チラチラとこちらを見てきます。彼らだけではありません。女子生徒たちまでもが、見てきます。クラスで目立っている女子グループも、目立たない女子グループも、見てきます。唯一、オタクグループの男子たちだけは、いつものように、ゲームやアニメの話に花を咲かせていました。見ていないグループがわかるということは、逆に、見ているグループもわかるのです。
嫌な、視線です。
もしかしてずっと、そう見られていたということでしょうか。
いつから私は、そんな目で見られていたのでしょうか。
ふと、一人の女子生徒と目が合いました。その女子生徒はぽっと顔を赤くさせると、勢いよく顔を背けて、グループとの会話に戻っていきました。彼女たちは両手で口元を抑えて、目ぇ合っちゃった、やばいなどと、小声のようで小声ではない声で盛り上がります。
そうでした。そういえば私は、美形でしたね。
……。
……。
……気になるなぁ。
私は席を立って、グループの中にいるBくんの元へ行きました。
Bくんは私が向かってくるのを見ると、サッとグループの中央あたりに目線を向けました。明らかに、私から目を背けました。ですがまあ、先に来たのはBくんの方なのだから、別にいいでしょう。
私も随分、図太くなったものです。
悠介くんと仲良くなる前は、こんなこと、できたでしょうか。
「ちょっといいかな」
Bくんの肩をトンと叩くと、Bくんはビクっと五センチほど体を跳ね上がらせて、「なんだよ」と、振り返りました。私は特に前置きもせず、聞きました。
「俺のこと、見てたよね」
「え……いや……」
「責めてるわけじゃなくて。ただ、なんで見てたのか気になって」
「いや……それは……」
そう言うとBくんは、曖昧にグループのメンバーたちに目配せをしました。困った時のアイコンタクト。おい、どうすんだよ。知らねえよ。お前がやったんだろ。そんな声が聞こえてくる気がします。あくまで気がするだけですが……そのくらいは、私にもわかるのです。
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙。
……。
いや、感情に任せて来てしまいましたが、別にこちらに何か策があるわけではありません。悠介くんとの会話で沈黙は慣れたつもりでしたが……相手は悠介くんではありません。今回に関してはどうしようもありません。私にはどうすることもできません。
だからといって、ここで「ごめん、変なこと聞いちゃった」と引き返すのも、なんだかおかしな気がしますし……。
どうしましょう……。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あ〜〜〜〜〜〜!!!」
Bくんは突然声を出すと、頭の後ろをわしわしと掻き、「お前、最近目立ってんだよ!」と、わけのわからないことを言いました。
「え……?」
……???
ついていけません。
「気づいてねえの? お前五十嵐と喋るようになってから変わりすぎだって、みんな気になってんだよ!」
「は……」
変わりすぎ? 私が?
「俺が?」
「そうだよ!」
……つまり、悠介くんと話しているところを、認識されていた?
こんな、世界の隅で大人しく生きているような人間が?
悠介くんだって、目立つタイプの生徒ではありませんでしたよね……?
「……???」
私が困惑していると、「お前自覚ねえの?」と、グループの別の男子生徒が雑に言葉を投げてきました。私が「俺、目立つ方じゃないけど……」と言うと、その男子生徒は「いやお前五十嵐と喋ってる時、すげえ目立ってんぞ」と、これまた雑に返してきました。
「え……?」
「お前、五十嵐と喋ってる時だけ声がでかい」
「え……?」
声が、でかい……??
「俺、そんなに声大きかった……?」
「めちゃくちゃデカかった」
これまた別の生徒が言いました。
「……」
なんですかそれ。
なんですかそれ!!!
「そっか、そうだったんだね、ありがとう、わかったよ……」
私はなんとか一息で言いましたが……その声はひどく震えていました。Bくんは「おう」と困惑したような声で言いました。他の男子生徒たちも、なぜか黙ってしまいました。
今になって気になり始めました。
グループの視線が、集まっている。
みんな、見ている。
……!!!
熱い。顔が熱くて仕方がありません。どれだけひどい顔になっているか、想像しただけで暴れたくなります。
「……」
それ以上そこにいることができず、私は蚊の鳴くような声で「お邪魔しました」と言うと、そそくさと退散しました。
恥ずかしい。
今のは本当に、恥ずかしい。
私は机に突っ伏しました。私の全身は震えていました。羞恥です。これは純然たる羞恥です!
文庫本を出すことすらできません。今顔を上げたら、何かが終わる気がしました。
今この瞬間も、私は、Bくんたちのグループに見られているのでしょうか。
他のグループにも、見られているのでしょうか。
……。
きっと、見られているでしょう! あんな醜態を晒した後なのですから!
顔を上げられない。
今彼らの存在を認識したら、耐えられなくて潰れてしまう!
幸いにも、突っ伏してからすぐにチャイムが鳴りました。生徒たちが席に戻っていく音が聞こえます。皆が席につき、すっかり静かになってから、私はそろそろと顔を上げました。教師が授業を始めました。私は黒板だけを、必死に凝視しました。
授業の合間の休み時間、Bくんたちが、チラチラとこちらを見てきます。彼らだけではありません。女子生徒たちまでもが、見てきます。クラスで目立っている女子グループも、目立たない女子グループも、見てきます。唯一、オタクグループの男子たちだけは、いつものように、ゲームやアニメの話に花を咲かせていました。見ていないグループがわかるということは、逆に、見ているグループもわかるのです。
嫌な、視線です。
もしかしてずっと、そう見られていたということでしょうか。
いつから私は、そんな目で見られていたのでしょうか。
ふと、一人の女子生徒と目が合いました。その女子生徒はぽっと顔を赤くさせると、勢いよく顔を背けて、グループとの会話に戻っていきました。彼女たちは両手で口元を抑えて、目ぇ合っちゃった、やばいなどと、小声のようで小声ではない声で盛り上がります。
そうでした。そういえば私は、美形でしたね。
……。
……。
……気になるなぁ。
私は席を立って、グループの中にいるBくんの元へ行きました。
Bくんは私が向かってくるのを見ると、サッとグループの中央あたりに目線を向けました。明らかに、私から目を背けました。ですがまあ、先に来たのはBくんの方なのだから、別にいいでしょう。
私も随分、図太くなったものです。
悠介くんと仲良くなる前は、こんなこと、できたでしょうか。
「ちょっといいかな」
Bくんの肩をトンと叩くと、Bくんはビクっと五センチほど体を跳ね上がらせて、「なんだよ」と、振り返りました。私は特に前置きもせず、聞きました。
「俺のこと、見てたよね」
「え……いや……」
「責めてるわけじゃなくて。ただ、なんで見てたのか気になって」
「いや……それは……」
そう言うとBくんは、曖昧にグループのメンバーたちに目配せをしました。困った時のアイコンタクト。おい、どうすんだよ。知らねえよ。お前がやったんだろ。そんな声が聞こえてくる気がします。あくまで気がするだけですが……そのくらいは、私にもわかるのです。
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙。
……。
いや、感情に任せて来てしまいましたが、別にこちらに何か策があるわけではありません。悠介くんとの会話で沈黙は慣れたつもりでしたが……相手は悠介くんではありません。今回に関してはどうしようもありません。私にはどうすることもできません。
だからといって、ここで「ごめん、変なこと聞いちゃった」と引き返すのも、なんだかおかしな気がしますし……。
どうしましょう……。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あ〜〜〜〜〜〜!!!」
Bくんは突然声を出すと、頭の後ろをわしわしと掻き、「お前、最近目立ってんだよ!」と、わけのわからないことを言いました。
「え……?」
……???
ついていけません。
「気づいてねえの? お前五十嵐と喋るようになってから変わりすぎだって、みんな気になってんだよ!」
「は……」
変わりすぎ? 私が?
「俺が?」
「そうだよ!」
……つまり、悠介くんと話しているところを、認識されていた?
こんな、世界の隅で大人しく生きているような人間が?
悠介くんだって、目立つタイプの生徒ではありませんでしたよね……?
「……???」
私が困惑していると、「お前自覚ねえの?」と、グループの別の男子生徒が雑に言葉を投げてきました。私が「俺、目立つ方じゃないけど……」と言うと、その男子生徒は「いやお前五十嵐と喋ってる時、すげえ目立ってんぞ」と、これまた雑に返してきました。
「え……?」
「お前、五十嵐と喋ってる時だけ声がでかい」
「え……?」
声が、でかい……??
「俺、そんなに声大きかった……?」
「めちゃくちゃデカかった」
これまた別の生徒が言いました。
「……」
なんですかそれ。
なんですかそれ!!!
「そっか、そうだったんだね、ありがとう、わかったよ……」
私はなんとか一息で言いましたが……その声はひどく震えていました。Bくんは「おう」と困惑したような声で言いました。他の男子生徒たちも、なぜか黙ってしまいました。
今になって気になり始めました。
グループの視線が、集まっている。
みんな、見ている。
……!!!
熱い。顔が熱くて仕方がありません。どれだけひどい顔になっているか、想像しただけで暴れたくなります。
「……」
それ以上そこにいることができず、私は蚊の鳴くような声で「お邪魔しました」と言うと、そそくさと退散しました。
恥ずかしい。
今のは本当に、恥ずかしい。
私は机に突っ伏しました。私の全身は震えていました。羞恥です。これは純然たる羞恥です!
文庫本を出すことすらできません。今顔を上げたら、何かが終わる気がしました。
今この瞬間も、私は、Bくんたちのグループに見られているのでしょうか。
他のグループにも、見られているのでしょうか。
……。
きっと、見られているでしょう! あんな醜態を晒した後なのですから!
顔を上げられない。
今彼らの存在を認識したら、耐えられなくて潰れてしまう!
幸いにも、突っ伏してからすぐにチャイムが鳴りました。生徒たちが席に戻っていく音が聞こえます。皆が席につき、すっかり静かになってから、私はそろそろと顔を上げました。教師が授業を始めました。私は黒板だけを、必死に凝視しました。
