恋人のやり方がわからない

 翌日、悠介くんは風邪を引いて学校を休みました。ラインに「悪い、風邪引いた」とメッセージが来ていました。
 いないんだ。
 助かった。
 ……いや、何が?
 ……。
 私は学校に着いてから、悠介くんに「お大事にね」というメッセージと、「お大事に」と言っている黒猫のスタンプを送りました。送ってから、まったく同じことを二回も言ったことに気付きましたが……「ありがとうな」と返ってきて、まあいいかとスマホを閉じました。
 助かった、なんて思いつつ、やっぱり悠介くんがいないのは寂しいです。蛾の報告も、雲の報告もない。
 窓際に、空席がある。
 そこだけぽっかりと穴が空いている。
 視界から色がなくなってしまったかのよう……、
 というのが、誇張に思えません。
 仕方なく私は、自分の席で文庫本を開きました。内容は頭に入ってきません。周りの視線から身を守るための、形だけの読書。この感じも、久しぶりです。
 今日は一言も声を出さずに終わるのだろうな。
 そういえば昔は、こんなのばっかりだったな。
 と、思っていた時でした。
「成瀬、何読んでんだ?」
 頭の上から、男子生徒の声が降ってきました。見上げた先にいたのは確かバスケ部の……名前はBくんとしておきましょう。
「こういうやつ」
 私は本をパタンを閉じて、表紙を見せました。
「へぇ、それ、面白い?」
「それなりに」
 私は社交用の、そこそこの笑顔を張り付けて言いました。社交用の笑顔、これも随分と久しぶりです。
 読んでないだなんて、本当のことは言いませんでした。ここで言えば面倒な会話が始まることくらい、わかりきっていました。
「へぇ、どのへんが?」
「まだ最初の方しか読んでないから、よくわからないかな」
「ふーん……」
 なんか、面倒だな。
 早く帰ってくれないかな。
 と思いつつ、帰ってもらうためのスマートな方法が思いつくわけでもありませんでした。私は困ってしまいました。そうして、視線を彷徨わせた時でした。
 ……見ている。
 男子グループが、こちらを見ている。
 あれは確か、Bくんがいつも一緒にいるグループだったはず……。
 私は眉間にシワを寄せました。
 それでも、Bくんは構わず話しかけてきます。
「今日、五十嵐いないんだな」
 ……どうして五十嵐くんを?
「お前ら最近、ずっと一緒にいるからさ」
 ……そうでしたね。
「お前って、意外とよく喋るんだな」
 ……悪いですか。
「お前らもしかして付き合って……」
「秘密」
 そう言って、立ち上がりました。
「それは、秘密」
「え……」
「じゃあ、俺、用事があるから」
 そう言って私は、感じの悪くない最低限の笑顔を浮かべたまま、背中を向けました。
 ああ……そうです、はじめからこうしていればよかったのでした。なぜ席を立つという簡単な方法が思いつかなかったのでしょう。私はトイレに向かい、洗面台で顔を洗うと、意味もなく廊下を歩いて、ホームルームが始まる直前まで歩いてから、自分の教室に戻りました。