恋人のやり方がわからない

 翌日も、悠介くんの方が先に登校していました。目が合ったので軽く会釈すると、悠介くんは小さく手を上げてくれました。
 返事してくれた……!
 いや別に、それだけなのですが。
 私がカバンを置くと、悠介くんは私の机に来て「はよ」と言いました。いつも通りです。
 ちょっと名前、呼んでみようかな。
 私は「悠介くん、おはよ」と言いました。ちょっと声が、上ずった気がする。
 やっちゃったかな、と、思いましたが……。
 悠介くんの顔はみるみるうちに赤くなっていき、そうして、「不意打ちやめろよな……」とそっぽを向いてしまいました。
「あ……」
 それを見て、私の顔も熱くなってきてしまいました。
 先に呼んでほしいと言ったのはそっちなのに!
 私は誤魔化すために、何か話題を探しました。昨日の猫……いや、猫はなんだか学校では触れたくない。じゃあ、何を、何を……。
「そうだ」
 思いついた。
「今日、放課後一緒にアイス食べない……?」
「アイス……?」
 悠介くんは目をパチパチとさせました。私は妙に焦ってしまい、
「いや、別に、アイスじゃなくてもいいんだけど……なんか、そういうやつやってみたくて……」
 と続けました。
「そういうやつ……」
 悠介くんは、まだ目をパチパチとさせています。
「なんか買って一緒に食べるやつ……なんだけど、ダメ……かな……」
 さらに焦ってそう付け足すと……悠介くんは、顔を緩ませて「いいよ、やろう」と言ってくれました。
 いいって言ってくれた……!
 それから私は、思いつくままに「こういうのって、自販機で買って歩きながら食べるのかな、コンビニで買うのかな、それとも普通にお店で座って……」と並べていきました。すると悠介くんは再び目を見開き、「今そこまで考えるのか……!」と、何か大発見をしたかのように言いました。
 そこで初めて私はハッとして、あっ、普通の高校生はわざわざこんなことを話し合わないものだったか? と、急に恥ずかしくなりました……が、悠介くんは「コンビニで買うやつやってみたい」と言ってくれました。
 買うやつやりたいって……!
 っ……!
 それから私たちは、少しだけ喋りました。私が、新しく描いた絵を見せたのです。今回は雲ではなく月を描いてみました。クレーターや影をしっかりと描き込んだものでした。悠介くんはまた目をキラキラさせて、「うま」と言ってくれました。あれだけ重大事件だった絵を見せる行為も、今ではかなり日常になっていました。
 チャイムが鳴り、悠介くんは「またな」と席に戻っていきます。私も「またね」と後ろを向き、小さく手を振った、その時でした。
 パチンと、ある男子グループの一人と目が合いました。
「……?」
 たまたまでしょうか。私はそれ以上特に気に留めず、席に座りました。