恋人のやり方がわからない

 夜。すっかり暗くなりましたが、私はまだ、悠介くんと一緒にいました。
 二人で並んで、あのT字路までの道を歩いていました。
「……今日も天気がいいね」
「……そうだな」
 私はまだ、さっきの部屋のことがまだ気恥ずかしくて、うまく振る舞えません。
「……そういえば悠介くんは、星は見えるの?」
「明るいやつなら、なんとか……」
「そうなんだ」
 そう言うと悠介くんは、目を細めて空を見ると、
「今度の土曜にでも、眼科行ってこようかな」
 と呟きました。
「メガネの?」
「メガネっつうか、コンタクトが欲しいかな」
「そうなんだ」
 それから悠介くんは、「眼科ってなんか怖いことすんのかな」と聞いてきましたが、あいにく私は目が良かったので「わかんない」と答えることしかできませんでした。

・ ・ ・

 思い立ったのは、その日の夜の九時頃でした。
 T字路に着き、悠介くんと別れ、家に帰り、母親に「遅かったね」と言われ、食事も入浴もすべて終わらせ、さて勉強をやろうと机に向かった時でした。
「猫……」
 突然、昨日のメッセージのことを思い出しました。
 ベッドに投げていたスマホを拾い、悠介くんとのメッセージ画面を開いてみました。しかし当然、そこにあるのは、送信取り消しの履歴と、無機質なサムズアップの絵文字だけです。
 また、見たい……。
 いや、今は勉強を……。
 ……。
 気になる。
 自分から、かわいいスタンプを送ってみようか。
 こちらが送ったら、向こうも送り返してくれるだろうか。
 あと、付き合っている人から可愛いスタンプが来たら、悠介くんは喜んでくれたり……?
 ……。
 いや、そんな。
 変なことは考えるな。今は勉強だ。
 それに、可愛い三毛猫のスタンプは触れないことにしたんだ。
 だから今は、忘れるべきなんだ。
 ……。
 気づけば私はラインを開いていました。そうして、自分の黒猫のスタンプを眺め……思いました。
 ちょっとクールすぎる。
 これでは悠介くんの三毛猫を引き出すには不十分か?
 私はスタンプのストアを開きました。別に、今すぐ買わなければと思ったわけではありませんが、ただなんとなく見てみようと思ったのです。
 とりあえず「猫」と検索窓に入れ、スクロールしました。すると、出てくる出てくる、本当にたくさんの候補が……。ゆるいデフォルメ、ちょっとリアルな絵柄、フェミニンに振った作風……これだけあれば、選択肢のなさに困ることなどありません。ですが……。
「あれっ、もう十一時?」
 さっきまで、九時くらいではありませんでしたか?
 ストアから戻ってくると、悠介くんからメッセージが一通来ていました。今日もありがとう、楽しかった。それだけのものです。いつもの悠介くん。いつもの、まったく長文を言おうとしない、悠介くん。
 ふと思いました。
 送って、みようかな。
 私は「俺も楽しかったよ」と打ち込んで送信すると、自分の黒猫スタンプ一覧をタップして、ざっと眺めました。そして見つけました。「ありがとう」と描かれたスタンプを。
 本当に、送っていいのかな。
 いや……。
 一度迷って閉じてしまいましたが……もう一度開き直して、ありがとうのスタンプをタップし、送り……ました! 気づけば私の指は震えていました。
 既読はすぐにつきました。
 そして画面を見つめていると……ちょうどその一分後に、三毛猫がにこりと笑った、可愛らしいデフォルメのスタンプが送られてきました。
 ……。
「……うそ」
 ……こんなに簡単に、猫ちゃんが返ってきた?
 ……うそ!!
「っ〜〜〜!!」
 まずい!
 可愛い!!!
「ああ、もう〜〜〜!」
 私は震える身体で、床の上を何度ものたうち回りました。
 三毛猫ちゃん、私には少し、可愛すぎました。