翌朝私は、登校して真っ先に五十嵐くんを探しました。もちろん、傘を返すためです。
ですが五十嵐くんは、まだ来ていませんでした。私は文庫本を開きながら、チラチラと教室のドアを見ては、五十嵐くんを探します。しかし待てども待てども五十嵐くんが来る気配はなく……。
ようやく五十嵐くんが来たと思った瞬間、即座に私は立ち上がりましたが、ホームルームのチャイムに阻まれました。今まで知りませんでしたが、どうやら五十嵐くんは、ホームルームギリギリ勢であるようです。なんと迷惑な性質でしょう!
やるべきことを抱えながら何もできずに時間を過ごすというのは、どうにも落ち着かないものです。私はホームルームの間中、ずっとソワソワしながら、早く次のチャイムが鳴らないかと、机の上で固く手を組んでいました。そうしてホームルームが終わったところで、私は真っ先に五十嵐くんの机に向かいました。
「昨日は傘、ありがとう」
私は例の社交用笑顔を浮かべて、傘を差し出しました。すると五十嵐くんは、しげと傘を眺めて、それから「おう」と言いました。そうして続けました。
「体調、大丈夫だったか?」
体調……。
……濡れたことに対してでしょうか。
「大丈夫だよ。そういう五十嵐くんは?」
「ん、俺も大丈夫」
そうして、会話は終わりました。
「……」
「……」
……喋ることがないな。
「……」
「……」
あ、帰ればいいのか。
長い長い沈黙の末ようやく気付き、私は「それじゃあ行くね」と手を振って背を向けました。直前に見えた五十嵐くんは、昨日のように小さく手を上げていました。
席に戻ってからこっそりと五十嵐くんを見ると、彼は、頬杖をついて、ぼんやりと窓の外を眺めていました。
……。
それ以降、私が五十嵐くんと話すことはありませんでした。二日、三日、一週間経った今も、私たちは一言も喋っていません。ただ時折、文庫本越しに、今日も五十嵐くんはホームルームギリギリじゃないかだとか、今日も窓の外を見ているぞだとか、そんな観察をするようになったくらいです。五十嵐くんは面白い人で……予想通りの行動しかしません。
私も私で、何も変わりはありません。学校では、普通に授業を受けて、休み時間は本を読むフリをします。そうして放課後になると、真っ先に家に帰って、読んでいるフリをしていた本を本当に読んだり、なんとなく好きな絵を描いて過ごしたりしています。
ですが五十嵐くんは、まだ来ていませんでした。私は文庫本を開きながら、チラチラと教室のドアを見ては、五十嵐くんを探します。しかし待てども待てども五十嵐くんが来る気配はなく……。
ようやく五十嵐くんが来たと思った瞬間、即座に私は立ち上がりましたが、ホームルームのチャイムに阻まれました。今まで知りませんでしたが、どうやら五十嵐くんは、ホームルームギリギリ勢であるようです。なんと迷惑な性質でしょう!
やるべきことを抱えながら何もできずに時間を過ごすというのは、どうにも落ち着かないものです。私はホームルームの間中、ずっとソワソワしながら、早く次のチャイムが鳴らないかと、机の上で固く手を組んでいました。そうしてホームルームが終わったところで、私は真っ先に五十嵐くんの机に向かいました。
「昨日は傘、ありがとう」
私は例の社交用笑顔を浮かべて、傘を差し出しました。すると五十嵐くんは、しげと傘を眺めて、それから「おう」と言いました。そうして続けました。
「体調、大丈夫だったか?」
体調……。
……濡れたことに対してでしょうか。
「大丈夫だよ。そういう五十嵐くんは?」
「ん、俺も大丈夫」
そうして、会話は終わりました。
「……」
「……」
……喋ることがないな。
「……」
「……」
あ、帰ればいいのか。
長い長い沈黙の末ようやく気付き、私は「それじゃあ行くね」と手を振って背を向けました。直前に見えた五十嵐くんは、昨日のように小さく手を上げていました。
席に戻ってからこっそりと五十嵐くんを見ると、彼は、頬杖をついて、ぼんやりと窓の外を眺めていました。
……。
それ以降、私が五十嵐くんと話すことはありませんでした。二日、三日、一週間経った今も、私たちは一言も喋っていません。ただ時折、文庫本越しに、今日も五十嵐くんはホームルームギリギリじゃないかだとか、今日も窓の外を見ているぞだとか、そんな観察をするようになったくらいです。五十嵐くんは面白い人で……予想通りの行動しかしません。
私も私で、何も変わりはありません。学校では、普通に授業を受けて、休み時間は本を読むフリをします。そうして放課後になると、真っ先に家に帰って、読んでいるフリをしていた本を本当に読んだり、なんとなく好きな絵を描いて過ごしたりしています。
