恋人のやり方がわからない

「……まだ熱いな」
 ベッドの上で、握られた右手を眺めていました。
 ご飯を食べても、シャワーを浴びても、まだ、熱いです。
 ……ゴツゴツしているようで、意外と、柔らかかったな……。
 ……。
「っ〜〜〜!」
 ああ、私は、何を考えているのでしょうか!

・ ・ ・

 翌朝も五十嵐くんは、私より早く登校していました。
 昨日のようにバチリと目が合って、つい、じっと見つめ合ってしまって、ふと女子生徒の「あの」の記憶が蘇り、そそくさと席につきました。
 そこから五十嵐くんのことは、見られませんでした。
 なんで。
 もう普通の友達じゃないのだから、普通の友達よりも、ずっと、見ていたっていいはずなのに。
 もっと、近づいたっていいはずなのに。
 椅子に座って机に突っ伏すと、窓際の方から足音が近づいてきました。知らないフリをしようか、いや、できない。
 私は結局、顔を上げました。五十嵐くんは心配そうな表情で、「成瀬、もしかして体調悪いか?」と聞いてきました。
「いや、悪くないよ……」
「そうか」
 そう言うと五十嵐くんは、あからさまにほっとしたように一つ息を吐きました。そうして、
「成瀬、蛾がいた」
 と、謎の報告をしてきました。
 ……。
 ……蛾?
「え、蛾……?」
 私は本気で困惑してしまい、五十嵐くんの顔をついじろじろ見てしまいました。すると五十嵐くんは手を頭の後ろにやり、「悪い、嘘ついた」と言いました。
「嘘……?」
「蛾とかいねえ」
「じゃあなんで……」
「お前、昨日から深刻そうな顔してるから……」
「……」
「蛾の話とか、ちょうどいいかなって……」
「……」
 ……いや。
 なんですかそれ。
 本当に、なんですか、それ?
 意味がわからない。
「ふふっ……」
「……!」
「五十嵐くん、何それ」
 いや、それは普通に可笑しいですよ。
 そんなこと言われたら、普通に笑ってしまうではありませんか。私が小さく声を上げて笑うと、五十嵐くんはパッと顔を明るくさせて、それから安心したようにふっと顔を緩ませました。
 あ。
 可愛い。
「五十嵐くん、可愛い」
 私は笑った勢いで、言っていました。五十嵐くんはポッと顔を赤くさせると、目を逸らして「いや……」と言いかけ、一瞬止まり、再び私を見ると「お前も可愛いよ」と、妙にはっきりとした声で言いました。
 いやに真っ直ぐな目。
 これ、からかいの可愛いじゃないのですよね。
 本気の可愛いなのですよね。
「あ……そんな……」
 ……これ、どう受け取ればいいのでしょうか。
 ちょうどよく、チャイムが鳴りました。
 助かった。
 本当に、助かった。