恋人のやり方がわからない

「成瀬、今日も一緒に帰んね?」
 放課後、チャイムが鳴ってすぐ、五十嵐くんは私の席にやってきました。
 いつもの誘い文句。
 でも。
 来るのが早い。
「……うん、いいよ」
 私は急いでカバンに教科書を詰めて、「お待たせ」と、今度こそは落ち着いた声で言いました。
「じゃ、行こうぜ」
「うん……」
 私たちは並んで教室を出ました。
「……」
「……」
 今日も、無言だ。
 学校を出てもなお、無言だ。
 昨日、あんなに恥ずかしいことを言ったのに。
 もしかして五十嵐くんは意識していないのだろうか……、
 なんて、そんなわけはない!
 意識していないなら、お弁当の時のあの挙動はおかしい!
 ……ですよね?
 ……。
 ……もう少し、近づいてみてもいいのでしょうか。
 でも、どうやって……。
「成瀬」
「なっ、なに?」
「手、繋いでもいいか?」
 ……。
 ……手!?
 五十嵐くんは、顔を真っ赤にしてこちらを見ていました。
「いっ、いいよ!」
 私はそう言って、右手を前に出しました。
 五十嵐くんはすっと一つ息を吸うと、
「じゃあ、触るぞ……」
 と、優しく、そろそろと包み込むように私の手を握りました。
「っ……!」
「あっ、嫌だったか!?」
「嫌じゃないよ!」
 互いに、声が大きい……!
 どうにも顔が熱くなってしまって、私はもう片方の手でパタパタと顔をあおぎました。五十嵐くんは、「嫌じゃないなら、よかった」と、ほとんど聞こえないくらいの声で呟きました。
「……」
「……」
 コンビニを通り過ぎる頃には、身体も少しだけ落ち着いてきました。
 握られたところが、熱い。
 当然だけれど。
 ドキドキする。
 当然だけれど……。
「なぁ、成瀬」
「なに……?」
 五十嵐くんが、真っ直ぐな目で見ている。
「俺たち、もう普通の友達じゃないんだよな……?」
「……うん」
「普通の友達じゃないこと、していいんだよな……?」
 手を握っておいて、何を今更……。
「うん、いいんだよ……」
 普通の友達じゃないこと、なんて、五十嵐くんはなんてことを言うんですか。
「……」
「……」
 ……五十嵐くん、雲だよ。
 ……最初に喋った時は、雨だったね。
 ……いや。
 急に、喋り方がわからなくなってしまった。