恋人のやり方がわからない

 四時間目のチャイムの後、教科書を片付けていると、お弁当を持った五十嵐くんがそろそろとやってきました。
 くっ、来るのが早い!
「ごめん、すぐ片付けるからもうちょっと……」
「全然ゆっくりでいいから……」
「うん……」
 ゆっくりでいいと言われたって!
 私は急いで片付けると、「お待たせ!」とやけにハキハキとした声で言って、それから、あれ、どうしたらいいんだと、固まってしまいました。
 こういう時って、どうすればいいんだ……?
 と、思っていたら。
「成瀬、ここの机、使っていいのか……?」
「あっ、いいと思う!」
「じゃあそっちに寄せるから……」
 そう言って五十嵐くんは、私の前の席の机を動かしました。そこはちょうど、遠くのグループにお弁当を持って移動していった生徒の席でした。
 そっか、いなくなった人の席を使えばいいのか!
 私はただただ、机を移動させる五十嵐くんを見ていました。
 ……いや。
 なんだこれ。
 これじゃあ、初心者丸出しじゃないか。
「成瀬……?」
「あっ、ごめん、ぼーっとしてた」
「……そうか、食おうぜ」
 五十嵐くんは、目の前の席に座りました。
 ……。
 初めて、面と向かって座りました。

・ ・ ・

「……」
「……」
 ……緊張する。
 まずい、ものすごく緊張する。
 ただ一緒にご飯を食べるだけなのに。
 こんなの、友達同士でも普通にやるはずのことなのに。
「……」
「……」
 ソワソワする。
 五十嵐くんも、多分ソワソワしている。
 やっぱり、この前までの沈黙とは違う。
 どうすればいいんだ、これ。
 結局食べている間、私たちは会話をしませんでした。正面を見たら何かが終わってしまうと思い、ずっと、下を見続けていました。
 最後の卵焼きを食べ終え、お弁当が空になってしまった瞬間、かなり、本当に、どうすればいいのかわからず、困りました。そのまま空の弁当を出し続けているのもおかしいので、ゆっくりと、ゆっくりとした動作で蓋を閉めましたが……。
 ……そっと視線を上げると、五十嵐くんは机の上で手を組んで、私を真っ直ぐに見ていました。
 ……見ている!?
 目が合って、ギクリとしたように、五十嵐くんは小さく身体を固まらせました。それからすっと窓の方に目を逸らして……しかし「いやでも、付き合ってるし……」と何か言い訳するように呟き……またこちらを見たかと思えば、もう一度外に目を逸らしました。
 五十嵐くん……。
 なんですかそれ……。
「五十嵐くん、食べるのはやいんだね……」
 特に意味もなく言ってみましたが……。
「別に……」
 返ってきたのは、それだけの、ぶっきらぼうな声でした。
 やっぱり、顔が赤い。
 照れてる。
 それが分からないほど、私は鈍感な人間ではありませんでした。