恋人のやり方がわからない

 ……などと思っていたのですが。
「成瀬、今日も一緒に帰んね?」
「……」
「成瀬……?」
「あっ、いいよ、帰ろう」
 五十嵐くんは平然と誘ってきました。
 昨日のことを、何も覚えていないのでしょうか。
 それとも……。
 ……それとも、なんでしょうか。

・ ・ ・

 二人並んで、昇降口を出ます。今日も無言です。
 誘ってきてくれたということは、少なくとも嫌われてはいないということでしょうか。
 聞いてみる?
 ……。
 いやいやいやいや、そんな無茶な!
 チラリと見上げた五十嵐くんは、真っ直ぐに前を向いていました。
 こっちは、見ないのか……。
 ……。
 いや。
 私も前を向きました。私ばかりが見ているのではおかしいでしょう。私と五十嵐くんは、ただの同級生なのですから。
 ……。
 もう一度、チラリと五十嵐くんを見ました。
「あっ」
 バチンと目が合ってしまいました。
 五十嵐くんはさっと顔を背けました。私も反射的に下を向きました。
「……」
「……」
 顔を、背けられてしまった。
 ……嫌われた?
 ……。
 気がつけば私たちはコインランドリーを過ぎており、あのT字路が近づいていました。
 私はぎゅっと、スクールバッグを握りしめていました。ああ、これで終わってしまうのか。今日は、はっきりとそう思いました。
 T字路に着いてしまったなと、思ったその時でした。
「成瀬」
「!」
 私の身体は、それはもうわかりやすく跳ね上がりました。
 ……何。
 私はそろりと、顔を上げました。顔を上げて、見て、私の心臓は、一瞬、ギクリと固まってしまいました。
 見上げた先の五十嵐くんは、いやに真っ直ぐに、私を見ていました。
「あのさ、昨日のこと、嬉しかったから……」
「えっ……」
「触られても平気だったってやつ……」
「あ……」
 ……どういうこと?
 私が目をパチパチとさせていると、五十嵐くんは目を逸らして、「ちゃんと言っといた方がいいかなって……」と、ほとんど聞き取れないような声で言い、それから、
「やっぱり忘れてくれ」
 と、今度ははっきりした声で言いました。そんな……。
「忘れないよ……」
「えっ……」
「あっ、いや、今のは忘れて……」
「俺の方が忘れてほしいんだけど……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ふふっ」
 なんですか、それ。
「五十嵐くんも、忘れてほしいこと言うんだ」
「そりゃ言うだろ……」
「全然そういうの気にしない人かと思った」
「いや気にすることもあるだろ……気になる奴の前じゃ……」
「……」
 えっ?
 私が固まると、五十嵐くんは「じゃ、また明日な」と言って、そそくさと背中を向けてしまいました。「あっ、待って……」という声は、届きませんでした。あるいは、届いた上で、聞こえなかったことにされたか。
 気になる奴……。
 気になる奴って、気になる奴ってことだよね?
 聞き間違いじゃ、なかったよね?