恋人のやり方がわからない

「成瀬、今日でけえ雲あったぞ」
 休み時間、五十嵐くんは突然来たかと思えば、それだけ言って去ろうとしました。
「え、ま、待って、なんで雲?」
 急いで呼び止めると、五十嵐くんは「いや、好きかなと思って」と、頭の後ろに手をやって言いました。
 五十嵐くん???
 また別の日には、「成瀬、今日すげえ丸い雲あったぞ」と報告してきました。
「な、なんで?」
「いや、好きかなと思って」
 ……昨日と同じ回答!
 また別の日には、「成瀬、今すげえでけえ雲あるぞ」と、現在進行形で報告してきました。
「……なんで?」
「いや、好きかなと思って」
 ……また同じ回答!
「見にいくか?」
「行くけど……」
 なんとなくそう答えてしまいました。
 そうして窓際の五十嵐くんの席に移動しましたが……。
「なんで俺に雲……?」
 聞いてみたら、
「お前、絵描くじゃん。だから……」
「……」
 とのことでした。
 ……それでわざわざ報告しに来てくれたのですか?
「ほら、あれ……」
「あ、本当にでかい……」
 私たちは並んで雲を眺めました。本当に、空一面を覆うような巨大な雲が広がっていました。
 ……これは、思ったよりレアだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
 ……いや、五十嵐くんが横にいるのに雲ばっかり見すぎかな。
 一応横も気にしておこうかな。
 そうして、チラリと隣を見た時でした。
「……五十嵐くん?」
 五十嵐くんは頬杖をついて、こちらを真っ直ぐに見ていました。
「あ、悪い」
 そう言うと五十嵐くんは、
「なんかお前、そういう顔で雲見るんだなって……」
 と、なんでもないように言いました。
「そういう顔って……」
「集中してる顔」
 いや、そうじゃなくて……。
「俺、すごい変な顔してた……?」
「いや、かっこいい」
「……」
 か、かっこいい!?
「そんな、かっこいいだなんて……」
「いや、うん……」
「……」
「……」
 なっ、なんですかこの空気!
 こんなのまるで……!
「つまり俺は良い表情をしていたってことだね?」
 私は必死に、誤魔化そうと思って言葉を捻り出しました。
 そしてその言葉は、まるで監督に褒められていい気になった役者のようでした。
 なんだこれ……。
 かなり、かなり変なことを言ったのに、五十嵐くんは、
「そうだ」
 だけで流しました。
「……」
「……」
 ……本当に、なんだこれ。
 でも。
「……この雲、珍しいからもうちょっと見てっていい?」
「いいよ、好きに見てけ……」
 レアな雲には抗えませんでした。
 そうして次のチャイムが鳴るまで、私たちは並んで空を見ていました。