恋人のやり方がわからない

「成瀬、今日も一緒に帰んねえ?」
「……!?」
 五十嵐くんが、用事もないのに帰宅を誘ってきた……!?
「うん、いいよ」
 私は努めて自然な声で言いました。そうして、二人並んで、昇降口を出ました。
「……」
「……」
 無言。
 かなり、いつも通りの無言……。
「成瀬」
 ……では、ありませんでした。
 五十嵐くんが話しかけてきました。
「何かな?」
「あの絵って……」
「絵……?」
「俺にしか見せてないのか?」
 ……。
「……見せてないよ」
「……」
「……」
「そうか」
 五十嵐くんは、それだけ言って、前を向きました。
 そこからは再び、無言でした。
 ……。
 別れ際まで、ずっと無言でした。
「じゃあね」
「ああ」
 T字路で手を振ると、五十嵐くんは小さく手を上げて去っていきました。私は俯き気味のまま、再び歩きました。
 俺にしか見せてないのか?
 見せてないよ。
 見せてくれて嬉しい。
 そんな。
 見せてくれて嬉しい……。
 そんな……。
 ……。
 気づけば早足になって、段々と早くなって、最後にはほとんど走るように大通りを抜けていました。勢いよく家のドアを開け、部屋のドアを開けて、カバンを投げて、そうしてベッドに顔を埋めました。
「なんで、これだけのことで……」
 いつの間にか、心臓はバクバクと暴れていました。
 その声は幸いにも、誰にも届きませんでした。