私が復帰したのは、ちょうど昼食の頃でした。保健室のベッドで一眠りした後には、身体の調子もすっかり回復しており、教室に戻って、普段通りにお弁当を食べることになったのです。
そうして普段通り、自分の机でお弁当箱を開けて、普段通り食べ終え、残りの時間で、とりあえず本を開いた時でした。
「成瀬」
突然、五十嵐くんの声が降ってきました。
「っ!」
突然来ないでください!
「……何かな?」
小さく肩を跳ね上がらせつつ、努めて、かなり頑張り、冷静な声で聞くと、五十嵐くんは「いや、今朝の用事……」と言いました。
あ。
「なんか言おうとしてただろ」
あ……。
「今ならいいかなって……お前調子大丈夫か?」
「いや……」
今朝の異様なテンション。
今朝の異様な、異様な……。
「あ、その……」
「……?」
「いや、大丈夫ではあるんだけど、大丈夫じゃないかもしれないというか……」
「じゃあ保健室に……」
「いや、やっぱり大丈夫……」
「そうか……」
それから五十嵐くんは、「じゃあ用事は……」と聞いてきました。そうですよね、聞きますよね。
「用事……」
「なんか、今朝言ってたろ……」
「えっと……」
用事。完全に、あれです。絵です。
「その……」
まずい。
何がそう、まずいか。一眠りして、冷静になって、わかったのです。
ただのクラスメートに、わざわざ徹夜してまで描いた絵を、わざわざ声をかけるほどの重大な用事として見せるのは、かなり、変です。
「えっと……」
私が口ごもっていると、五十嵐くんは小さく首を傾げて、覗き込むように私の顔を見つめてきました。
「その……」
「言いづらいやつか?」
「言いづらいというか、その……」
五十嵐くんは、まだこちらをじっと見ています。
純粋に気になるという顔で、逃がしてくれそうにありません。と、思ったら、
「言いづらいなら、別に……」
と、急に引いていきました。
あっ、えっ。
行ってしまうのですか!?
「絵を!」
「えを?」
「絵を、描いたんだ」
……。
ああ……白状してしまいました。
「昨日、絵、見せたでしょ?」
「ああ」
「あれ、まだ完成してなかったんだ」
「そうだったのか……?」
「だから、昨日完成させて!」
「……」
「見てもらおう……かな……と……」
声が萎んでいきます。やっぱり変です、こんなの。
言いながら、私はますます恥ずかしくなってしまいました。顔が赤くなっていくのが、自分でもわかります。五十嵐くんの顔が見られません。
私は本当に、何を言っているのでしょう……。
五十嵐くんも、何も言いません。やっぱり、言わない方がよかったか。五十嵐くんは引いていないか。そう、恐る恐る、見上げた時でした。
「見たい」
五十嵐くんは、ポツリと言いました。
「見せてくれるんだろ? 見たい」
今度は少しだけ強めの声で言いました。
そしてまた、じっと見ています。
いや、そんな声で、そんな顔で、見られたら……。
「今、出すね……」
私は結局、言われるがままにノートを出しました。私から言い出したのに、言われるがままとは、一体どういうことでしょう。
ノートを出す手は、わずかに震えていました。これは、自分の創作をさらけ出す時特有の緊張です。きっと、そうですよね?
「これ……」
ほとんど消えそうな声で言い、私はノートを開きました。それから、恐ろしい審判を待つように、五十嵐くんを見ました。しかし……いや、すると……? 五十嵐くんは目をパチリとさせて、
「すげえ……」
と、言いました。
「うまいな……」
「うまい……?」
「昨日のと全然ちげえ……」
「昨日のは全然、完成してなかったから……」
「すげえ……」
「本当……?」
五十嵐くんは目をパチパチとさせると、「本当」と言いました。それから、
「俺に見せてくれたの、嬉しい」
と、言いました。
……。
なんですかそれ。
見せてくれて、嬉しい……!?
「っ……!」
急に、身体の奥から何かが湧いてきました。私は手の震えを誤魔化すように、「っていう、そういう感じ!」と言って、サッとノートを閉じました。五十嵐くんから「あっ」と声が聞こえてきましたが、そんなのを気にする余裕などあるわけがありません!
ちょうどよく、チャイムが鳴りました。私は「見てくれて、ありがとう!」と、ほとんど投げやりな声で、叫ぶように言いました。五十嵐くんは、「おう……」と言って、席に戻っていきました。
困惑された!?
自分でもわかる。
今のは、かなり恥ずかしい挙動だ!
でも五十嵐くん、見せてくれて嬉しいって……。
見せてくれて嬉しいって……。
……。
そうして普段通り、自分の机でお弁当箱を開けて、普段通り食べ終え、残りの時間で、とりあえず本を開いた時でした。
「成瀬」
突然、五十嵐くんの声が降ってきました。
「っ!」
突然来ないでください!
「……何かな?」
小さく肩を跳ね上がらせつつ、努めて、かなり頑張り、冷静な声で聞くと、五十嵐くんは「いや、今朝の用事……」と言いました。
あ。
「なんか言おうとしてただろ」
あ……。
「今ならいいかなって……お前調子大丈夫か?」
「いや……」
今朝の異様なテンション。
今朝の異様な、異様な……。
「あ、その……」
「……?」
「いや、大丈夫ではあるんだけど、大丈夫じゃないかもしれないというか……」
「じゃあ保健室に……」
「いや、やっぱり大丈夫……」
「そうか……」
それから五十嵐くんは、「じゃあ用事は……」と聞いてきました。そうですよね、聞きますよね。
「用事……」
「なんか、今朝言ってたろ……」
「えっと……」
用事。完全に、あれです。絵です。
「その……」
まずい。
何がそう、まずいか。一眠りして、冷静になって、わかったのです。
ただのクラスメートに、わざわざ徹夜してまで描いた絵を、わざわざ声をかけるほどの重大な用事として見せるのは、かなり、変です。
「えっと……」
私が口ごもっていると、五十嵐くんは小さく首を傾げて、覗き込むように私の顔を見つめてきました。
「その……」
「言いづらいやつか?」
「言いづらいというか、その……」
五十嵐くんは、まだこちらをじっと見ています。
純粋に気になるという顔で、逃がしてくれそうにありません。と、思ったら、
「言いづらいなら、別に……」
と、急に引いていきました。
あっ、えっ。
行ってしまうのですか!?
「絵を!」
「えを?」
「絵を、描いたんだ」
……。
ああ……白状してしまいました。
「昨日、絵、見せたでしょ?」
「ああ」
「あれ、まだ完成してなかったんだ」
「そうだったのか……?」
「だから、昨日完成させて!」
「……」
「見てもらおう……かな……と……」
声が萎んでいきます。やっぱり変です、こんなの。
言いながら、私はますます恥ずかしくなってしまいました。顔が赤くなっていくのが、自分でもわかります。五十嵐くんの顔が見られません。
私は本当に、何を言っているのでしょう……。
五十嵐くんも、何も言いません。やっぱり、言わない方がよかったか。五十嵐くんは引いていないか。そう、恐る恐る、見上げた時でした。
「見たい」
五十嵐くんは、ポツリと言いました。
「見せてくれるんだろ? 見たい」
今度は少しだけ強めの声で言いました。
そしてまた、じっと見ています。
いや、そんな声で、そんな顔で、見られたら……。
「今、出すね……」
私は結局、言われるがままにノートを出しました。私から言い出したのに、言われるがままとは、一体どういうことでしょう。
ノートを出す手は、わずかに震えていました。これは、自分の創作をさらけ出す時特有の緊張です。きっと、そうですよね?
「これ……」
ほとんど消えそうな声で言い、私はノートを開きました。それから、恐ろしい審判を待つように、五十嵐くんを見ました。しかし……いや、すると……? 五十嵐くんは目をパチリとさせて、
「すげえ……」
と、言いました。
「うまいな……」
「うまい……?」
「昨日のと全然ちげえ……」
「昨日のは全然、完成してなかったから……」
「すげえ……」
「本当……?」
五十嵐くんは目をパチパチとさせると、「本当」と言いました。それから、
「俺に見せてくれたの、嬉しい」
と、言いました。
……。
なんですかそれ。
見せてくれて、嬉しい……!?
「っ……!」
急に、身体の奥から何かが湧いてきました。私は手の震えを誤魔化すように、「っていう、そういう感じ!」と言って、サッとノートを閉じました。五十嵐くんから「あっ」と声が聞こえてきましたが、そんなのを気にする余裕などあるわけがありません!
ちょうどよく、チャイムが鳴りました。私は「見てくれて、ありがとう!」と、ほとんど投げやりな声で、叫ぶように言いました。五十嵐くんは、「おう……」と言って、席に戻っていきました。
困惑された!?
自分でもわかる。
今のは、かなり恥ずかしい挙動だ!
でも五十嵐くん、見せてくれて嬉しいって……。
見せてくれて嬉しいって……。
……。
