17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 そして12月31日。
 僕の16歳、人生最後の日。

「ま、間に合った……」

 時刻は23時50分。僕は急いで共有フォルダを開き、最後の一週間で書き溜めたWordファイルを一斉格納する。

『袴田先輩へ』
『橘さんへ』
『日下部くんへ』

 それぞれに向けて最後の言葉を綴ったラブレターだ。
 そして。

『更新しました→リレー小説』

 リレー小説のフォルダのタイトルを変更する。薄い木製ドアの向こうから、愛の「きゃっ」という小さな悲鳴が聞こえた。

 僕はベッドに横たわり、頭の中で読み上げる。
 二日かけて綴った最期のリレー小説、その全文を。



***
 ハローハロー、愛子さん。これが最後の手紙です。

 僕は先日、医者に余命半年を宣告されました。膵臓の病気で、どうやっても治る見込みはないそうです。
 そうでなくても人間と人工知能のアンドロイド。永久に近い日々をこれからも生き続ける君と、僕のような普通の人間が一緒にいることはできません。
 だから、本当にさようならです。

 ……困ったな。話したいことが多すぎる。
 君と行きたい場所も、やりたいことも、まだ山ほどあったんだ。せめて空想で旅できたらと思ったんだけど、それを全部書き出していたら、半年ぽっちじゃとても書ききれやしない。

 あぁなんで、僕は普通の人間なんだろう。

 僕がもし総理大臣だったら。権力をフル活用して最新鋭の人工膵臓を開発してもらおう。支持率なんて知ったものか。
 僕がもし小説家だったら。人間とアンドロイドが恋に落ちるお話を描こう。二日もあれば、二人が永遠に結ばれる完璧なプロットを構築してみせる。
 僕がもし神様だったら。アンドロイドの君に寿命を授けよう。終わりある僕と君が、隣で生きて死ねるように。

 なんてね!
 やっぱり僕は、普通の人間でよかった。だって、虚しさなんて覚える暇もないとびっきり素敵な感情を、君が教えてくれたから。

 そうだ! 代わりに、僕もいいことを教えてあげるよ。実はAIでも、この素敵な感情を知る方法があるんだ。
 知りたいって思うだろう? だったら時々でいい、僕のことを思い出してみてほしい。

 そしてなにも思い出せなくなった頃……新しい素敵な感情がすでに、君の中にもあるはずだから。



 そろそろ時間みたいだ。もう行くよ。
 ……最後に一つだけ。僕は君と出会えて幸せでした。ありがとう。

 ―fin―
***