17年前の明日、僕は空の青さを知る。



 テーブルの上に広げられたお菓子、お菓子、お菓子。全部しょっぱい系だ。チョイスしたのは橘らしい。
 友だちがいない僕にはよくわからないが、こういうパーティーみたいなときは塩味と甘味をバランスよく取り揃えるものではないのだろうか。

「よし、激辛は我慢したんだな。偉いぞ橘」
「くぅん」

 袴田先輩の空中頭なでなでに、空中頭すりすりで返す橘。どうやら彼女はここでずいぶん甘やかされて育っているようだ。

「あの、愛知先輩」

 いわゆるお誕生日席に座った僕の右の斜向かい席から、阿良々木愛がこそこそと話しかけてきた。
 立っているときはほぼ同じ高さだった顔が今はどう見ても下にあるのは、きっと座高の問題じゃなくて阿良々木愛が酷い猫背だからだ。うん。そういうことにしておく。

「よかったらこれ、どうぞ。お昼に購買で買っておいたんです」

 彼女の手に握られていたのはあんパンが二つ。一つを自身の腿の上に置き、もう一つを僕に差し出してくる。
 なるほど。彼女の入部時にも歓迎会が行われたのなら、きっとすでにこの塩味パーティーを経験済みなのだろう。

「ありがとう。お金は後で……」
「いいんです。これはお礼のつもりで」
「お、良いもん持ってんじゃん。もーらい」

 左斜向かいからぬっと伸びた手が、僕の手からあんパンを奪っていく。

「ちょっと、ミッくん!」

 阿良々木愛が怒りの声を上げる。が、声も顔も可愛らしいせいか全く怖くない。

「いいじゃん別に。俺あんパン好きなんだよ」
「みっともないじゃんね! 我慢しりんよ! 今日は愛知先輩の歓迎会なんだから」
「じゃあお前のやつをあげればいいじゃん」
「あ、そっか! じゃあこっちをどうぞ、愛知先ぱ」
「っしゃ、もう一個ゲット」
「もうー、ミッくん!!」

 二つ目のあんパンを僕の手から取り上げた日下部からは、こいつには食べ物一つ渡さないという鉄の意志を感じる。我ながら、普通に生きてきただけのつもりでよくここまで嫌われたものだ。
 対して阿良々木愛はなぜこんなにも親切なのか、そして彼女の怒声はなぜこんなにも愛嬌があるのか、疑問は尽きない。

「じゃあとりあえず、改めて自己紹介をしようか」

 長テーブルの対面に座った文藝部部長袴田零士先輩(3―4)が言う。

「俺は文藝部部長の袴田零士。3―4だ」
「はい」

 既出情報だ。

「8月27日生まれ。B型。いいか、B型だ。好きな本は『負けヒロインが多すぎる!』シリーズ。いわゆるラノベだな。得意ジャンルはコメディ」
「? はぁ」

 なぜこの人はいきなり好きな本を言ったのだろう。自己紹介で名前等の基礎情報の次に出てくる話題にしては、ニッチすぎないだろうか。あと、得意ジャンルってなんだ。

「副部長、橘京華。2―7。3月18日生まれ。好きな本は『アヒルと鴨のコインロッカー』。得意ジャンルはミステリ」
「あ、あの、少しいいですか?」