17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 僕は愛の肩を大事に掴み、そっと引き離す。離れまいと力を込め、彼女が小さく「やだ」とこぼす。

「やだ、やだやだやだ。やだよ、先輩」
「愛さん」
「やだ!!!!!」

 愛の目からとめどなく流れる涙が僕の胸を濡らす。
 対して僕は全身の穴という穴に力を込め、君の心を拒絶し、毅然と言い放つ。


『あなたが別れたいというなら受け入れるよ。
 ただ、AIだって感情を持ちうると、それだけは認めてほしい。どうか今抱いているこの気持ちを否定しないでください。

 それだけが私の願い。勝手でごめんなさい』。


 それは以前、愛子が口にしたリレー小説の一節だ。愛は一瞬絶望の表情を浮かべた後、もはや絶叫しながら駄々をこねる。

「ウソつき! 別れないって言った!!」
「嘘は吐いてない。正確には『別れたいって言ってもいいの?』って言ったんだよ。僕は」
「賢太じゃなくて賢人だもん! 小説の話だもん!!」
「愛さん!!」

 これ以上はダメだ。決心が鈍る。僕は愛の言葉を遮って、今度こそ力を込めて彼女の身体を引き離した。

 これから死ぬ僕が愛する人のためにできること。ポンコツAIが最終的に下した決断は、いかにも陳腐で、単純で、人でなしなものだった。

「僕と別れてください」