17年前の明日、僕は空の青さを知る。



「あの、そろそろいいですよね。代わってください」

 話がひと段落した頃、愛が部屋のドアを開けてひょっこりと顔を出した。
 刺々しい物言いは、母に対する嫌悪感を隠しきれていない。というか、隠すつもりも元よりないのだろう。

「ごめんなさい、話は済んだわ。次は阿良々木さんの番よ」

 母がそそくさと部屋を出て行った後、愛はベッドの僕の隣に腰掛けた。そしてなにも言わず僕をぎゅっと抱きしめた。

 彼女は6月1日に出会ったあの日から僕が余命半年のAIだと知っていたはずだ。その事実がなんだかとても不可思議で、今でも信じられない。
 だって、すぐにいなくなるとわかっている相手を彼氏にする馬鹿がどこにいるだろう。

「……愛さん。僕なんかで本当によかったの?」

 疑問はそのまま口から出てきてしまった。愛は、出来の悪い子どもを叱るように、優しく口を動かした。

「よかったに決まってるだら。二度とそんなバカなこと聞かないで」

 なるほど、愛に言わせれば馬鹿なのは僕のほうだったらしい。どうせ馬鹿だと思われているなら、ちょうどいい。僕は愛にどうしても解せない疑問について、尋ねてみることにした。

「どうして愛さんは、自分がAIだなんて嘘を吐いたの?」
「ウソは吐いてないだら。あれは小説の中だけの設定だし。それに『もしAIだったらどうする?』って聞いただけじゃん」
「けど、」

 あれは僕たちが本音を吐き出す場所だったはずでしょ。そんな僕の不満を察したのか、愛はまぶたを伏せて静かに語り始めた。

「だって先輩ってさ、自分がAIだともし知ったら、今まで思ったこととか感じてきたこととか、当たり前に感情だと思ってたものも全部作り物だったんじゃないかとか、そういうふうに疑い出しそうじゃん。そんなの、悲しすぎるだら」

 言われて、自分で苦笑いしてしまう。さすが彼女。すごい解像度だ。

「そっか。だからAIでも感情を持ちうるって認めさせるために、AIを演じたんだね」
「……ねぇ先輩。今、先輩はなにを感じてる?」

 愛の問いに対し、言葉に詰まる。
 なにせさっき自分がAIだということと、あと一週間で死ぬことを知ったばかりなのだ。ようやく実感は湧いてきたけれど、整理はついてない。
 特に、後者に関しては。処理の遅いポンコツAIだ。

 僕はそんなポンコツをなんとか振り絞り、一つ思ったことを言ってみる。

「愛さんがAIじゃなくてよかった、とか」

「よくないだら。代わりに自分がAIだったんだよ?」
「元々はなりたかったんだけどね。そんなにいいもんじゃなかったや」

 一つ言ってみたら、他にもいろいろと思うところがあることに気が付いた。