17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 その言葉をトリガーに、女はいきなり泣き崩れた。
 見ていられれないほど惨めに、感情剥き出しで、僕の膝に縋りついて。

「ごめんなさい、ごめんなさい! 賢太! 私はあなたを愛してる! あなたを失いたくないの! ろくな食事を作ってあげられなくてごめんなさい!
 甚平似合ってたわ! あなたにお友だちや彼女ができたって聞いたとき、嬉しくて悲しくて、どうすればいいかわからなかったの!
 あぁ、賢太! ごめんなさい、ごめんなさい、賢太ぁ……」

 ……本当に勝手な女だ。僕は愛と、文藝部の皆と、そして死と。わずかに残された時間で向き合うべきものがたくさんあるのに。
 それがなんだ、今さらになって「賢太」なんて呼び始めて。人の心に割り込んできて。虫が良いにも、程が、あるよ……

「う、うわあぁぁ!」

 信じられない量の涙が溢れてきた。僕と女、合わせて四つの瞳から。
 僕はやっと得られたたくさんの幸福を、じきにこの女のせいで奪われる。最低最悪の人でなしだ。死んでも絶対に許さない。

 そのうえで、僕は彼女に伝える。

「母さんっ! ……僕を生んでくれて、ありがとう……」

 母はもう会話もできないほど嗚咽に塗れていた。
 僕はおそるおそる母の背中に手を回す。初めて触れる母の身体は、思っていたよりずっとずっと小さくて、骨ばっていた。
 震える背中をさすり続けるうちに、ささくれ立った心が少しずつ癒えていく。

 もういいよ。十分だ。
 母から初めて、クリスマスプレゼントをもらえたのだから。