17年前の明日、僕は空の青さを知る。

「最近……」
 聞きたいことは聞けと言ったくせに、女は僕の言葉にびくりと肩を震わせた。
「最近、食事に手作りを一品だけ混ぜてたよね? あれはどうして? 今さら罪悪感でも芽生えちゃったわけ?」
 もうすぐ死ぬから、と自分で付け加えた後でようやく実感が湧いてくる。

 そうか。僕、死ぬんだっけ。
 あまりに現実離れしてたからさっきまでは考えないで済んでたけど、他の非現実が現実に変わっていくにつれ、一番信じたくなかった話も自動的に現実のほうへと近づいてくる。

 もう僕にとって死は、薄氷一枚隔てたすぐ隣まで迫っていた。
 
「プロジェクトの期間は最初から16年間と決まっていた。理由としては、思春期という感情の移ろいが大きい時期を過ぎれば、それ以上は研究により得られるリターンより肉体維持などにかかる費用等のマイナス面のほうが大きいとの試算から。そのため、あなたの脳は17年目以降の記憶を蓄積できないように設計されている。
 だから私は、あなたが生まれた瞬間からあなたを大事にする気なんてなかった。息子だとも思いたくなかった。あくまで研究対象。本当に自分勝手な話だけれど、そう思っていなければ、機能停止のときに辛い思いをするはめになるのが目に見えていたから。
 だけど……日々成長するあなたを見続けるうちに、私はあなたをただの研究対象として見られなくなっていった。どれだけ避けても、酷い態度をとっても、あなたは私からの愛を得ようと必死だった。正直やめてほしかった。
 だっておかしいじゃない。今さら母性に目覚めたって、こんな私が、母親面なんてできるはずがない。こんな私が……」

 女のポーカーフェイスが少しずつ剝がれ始める。呼吸が浅くなって、目尻のしわに水滴がしがみついているような幻覚まで見える。
 こっちこそ、正直やめてほしかった。やめてほしいはずなのに、僕は決定的な追及をしてしまった。

「あなたは結局、僕のことをどう思ってるの?」