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起き上がってベッドの縁に腰掛ける。まだ頭がぼーっとする。やはり麻酔の後とそっくりだ。
唯一違うのはいつもより身体が重い。というより、いつも麻酔の後はなぜか身体が軽くなっていたのだ。今にして思えば、それも兆候だった。
「ちょっとだけ待ってちょうだい」
母が僕と向き合い、正座した膝の上でノートパソコンを開く。
「あ、あの、なにしてるの? 母さん」
損傷部位、なし。動作不良、視認できず。母はブツブツとつぶやきながらパソコン画面に逃げる。
カタカタ……カタカタ……キーボードで僕の大嫌いな音を立てながら。
「なにしてんだって聞いてんだよっ!!」
手でパソコンを力任せに払いのけると、ガシャンと派手な音を立てて床に落ちた。母は拾う素振りすら見せず、観念したように静かに口を開き始めた。
「……国を挙げた壮大なプロジェクトだったの。『AIは感情を持ちうるか』、それを研究するための」
「……」
「私は研究のリーダーを任されていた。極めて人体に等しい、成長するアンドロイドの開発に成功し、脳に人工知能、つまりAIを埋め込んだ。それが16年と358日前の1月1日」
「……」
「『AI治験体一号・愛知賢太』。私の仕事は、母親の代わりとしてあなたを育て、感情が宿るかを調査することだった」
なにを言っているのかわからない。わかりたくない。
脳が――母が言う人工知能とやらが、理解を拒否している。
約17年間僕の母として振る舞っていた女は、無慈悲にも口を閉じる気配はない。
「治験体本人にはAIであることを知らせず、人間としての生活を与える。ただ、AIの脳は普通の人間とは違う。あらゆることを学習し、忘れない。だから『サヴァン症候群に伴う極めて優れた記憶能力』であると説明した。
そしてその研究のためという名目で毎月一回、病院と偽った研究施設で唾液や心拍等を測定し、感情の成長を調べる材料としていた。また麻酔と称して一時的に機能停止させ、肉体のメンテナンスも行っていた」
目の前の女は必要最低限の情報だけを淡々と並べていく。すると脳は僕の意思を無視し、勝手にあらゆる疑問の辻褄合わせをしていく。
順調に僕がアンドロイドである証拠が積み重なってゆく。
「愛さんが、僕がAIだと知っていたっていうのは?」僕は初めて自分から口を開いて質問をした。
「あなたが中学生に上がる頃、研究は第2フェーズに突入した。小学生までは周囲に対してあなたがAIであることは一切極秘情報として扱っていたけれど、中学からは同じ学校の生徒およびその関係者全員に、あなたに関する真実を公表した。言うまでもなく、環境が変わることであなたの感情発育に変化があるかを調べるためよ。
ただし治験体本人にAIだと伝えることは、ペナルティを課して厳重に禁止していた」
「……あぁ」
他人事のような声が漏れた。そうか。それで中学に上がった途端、友だちは皆僕から離れていったのか。
実に納得がいった。ということは、日下部も袴田先輩も橘も僕がAIだと知っていたということになる。
思い出したのはあのディベートの日のこと。僕はてっきり愛がAIで、彼女の感情を否定したくないために皆理不尽に僕を責めてきたのだと思っていた。
愛自身の言動についても、自分自身の存在を認めてほしいがための暴走だと思っていた。
だけど彼らが本当に肯定したかったのは、愛の感情ではなかった。
「他に聞きたいことはある? 全て、包み隠さず話すわ」
女はいまだ、辛うじてポーカーフェイスを崩さずにいる。そのことが僕には酷く気に食わず、許せなかった。
起き上がってベッドの縁に腰掛ける。まだ頭がぼーっとする。やはり麻酔の後とそっくりだ。
唯一違うのはいつもより身体が重い。というより、いつも麻酔の後はなぜか身体が軽くなっていたのだ。今にして思えば、それも兆候だった。
「ちょっとだけ待ってちょうだい」
母が僕と向き合い、正座した膝の上でノートパソコンを開く。
「あ、あの、なにしてるの? 母さん」
損傷部位、なし。動作不良、視認できず。母はブツブツとつぶやきながらパソコン画面に逃げる。
カタカタ……カタカタ……キーボードで僕の大嫌いな音を立てながら。
「なにしてんだって聞いてんだよっ!!」
手でパソコンを力任せに払いのけると、ガシャンと派手な音を立てて床に落ちた。母は拾う素振りすら見せず、観念したように静かに口を開き始めた。
「……国を挙げた壮大なプロジェクトだったの。『AIは感情を持ちうるか』、それを研究するための」
「……」
「私は研究のリーダーを任されていた。極めて人体に等しい、成長するアンドロイドの開発に成功し、脳に人工知能、つまりAIを埋め込んだ。それが16年と358日前の1月1日」
「……」
「『AI治験体一号・愛知賢太』。私の仕事は、母親の代わりとしてあなたを育て、感情が宿るかを調査することだった」
なにを言っているのかわからない。わかりたくない。
脳が――母が言う人工知能とやらが、理解を拒否している。
約17年間僕の母として振る舞っていた女は、無慈悲にも口を閉じる気配はない。
「治験体本人にはAIであることを知らせず、人間としての生活を与える。ただ、AIの脳は普通の人間とは違う。あらゆることを学習し、忘れない。だから『サヴァン症候群に伴う極めて優れた記憶能力』であると説明した。
そしてその研究のためという名目で毎月一回、病院と偽った研究施設で唾液や心拍等を測定し、感情の成長を調べる材料としていた。また麻酔と称して一時的に機能停止させ、肉体のメンテナンスも行っていた」
目の前の女は必要最低限の情報だけを淡々と並べていく。すると脳は僕の意思を無視し、勝手にあらゆる疑問の辻褄合わせをしていく。
順調に僕がアンドロイドである証拠が積み重なってゆく。
「愛さんが、僕がAIだと知っていたっていうのは?」僕は初めて自分から口を開いて質問をした。
「あなたが中学生に上がる頃、研究は第2フェーズに突入した。小学生までは周囲に対してあなたがAIであることは一切極秘情報として扱っていたけれど、中学からは同じ学校の生徒およびその関係者全員に、あなたに関する真実を公表した。言うまでもなく、環境が変わることであなたの感情発育に変化があるかを調べるためよ。
ただし治験体本人にAIだと伝えることは、ペナルティを課して厳重に禁止していた」
「……あぁ」
他人事のような声が漏れた。そうか。それで中学に上がった途端、友だちは皆僕から離れていったのか。
実に納得がいった。ということは、日下部も袴田先輩も橘も僕がAIだと知っていたということになる。
思い出したのはあのディベートの日のこと。僕はてっきり愛がAIで、彼女の感情を否定したくないために皆理不尽に僕を責めてきたのだと思っていた。
愛自身の言動についても、自分自身の存在を認めてほしいがための暴走だと思っていた。
だけど彼らが本当に肯定したかったのは、愛の感情ではなかった。
「他に聞きたいことはある? 全て、包み隠さず話すわ」
女はいまだ、辛うじてポーカーフェイスを崩さずにいる。そのことが僕には酷く気に食わず、許せなかった。
