もしかしてまだ夢を見ているのだろうか。
ならどこからが夢? この手に残る愛の身体の感触は? 匂いは? 体温は? 網膜に焼き付いた表情は?
はっきりと覚えている。忘れるはずがない。
だってこの二か月半近く、あんなにも求めてやまなかったものを、ようやく手に入れたはずだったのだから。
というか、そうだ。逃げないと。新幹線で終点まで。
愛はAIで、なぜか母は僕と愛やその周囲の人たちを隔離したがっていて、母はAIの研究をしていて、だから、母の目が届かないところまで逃げなきゃで。
こんなところにいる場合じゃない。……そう約束したじゃないか、愛さん。
なんで君がその母さんと一緒にいるの?
母さんも、普段の態度はどこへやったの?
なんでそんな辛そうな声してるの?
「ちょっと待って」
頭のすぐ近くで母の声がする。なぜか見たこともない、青ざめた顔の母が頭に浮かんだ。続いて耳の裏を無造作に探る冷たい指の感触。
「起動ランプが付いてる……あなた、起きているの?」
「! 嘘……せ、先輩?」
嘘、はこちらのセリフだ。嘘であってくれ、なにもかも。
おそるおそる薄目を開けた僕の視界には、心配そうにのぞき込む二人の顔があった。愛なんてほとんど泣いている。
ねぇ、なんの涙だよ、それ。
「どこから聞いてたの?」
母が淡々と僕に確認する。いつも病院でサヴァン症候群の検査をしている人たちと似た声のトーンだ。似ているけど、少しだけ震えていた。
僕は質問に正直に答える。
「『緊急停止スイッチは、普通に生活していては絶対触れないような場所に……』ってところから」
「……もう隠し通すのは無理そうね。阿良々木さん。申し訳ないけれど、少しだけ席を外してくれないかしら。……全て説明するのが私の義務だから」
愛は一瞬不安と不服が混じったような顔をした後、「わかりました」と言って部屋を出ていく。
助けを求めるようにその背中に視線を送るが、彼女が振り返ることはなかった。
ならどこからが夢? この手に残る愛の身体の感触は? 匂いは? 体温は? 網膜に焼き付いた表情は?
はっきりと覚えている。忘れるはずがない。
だってこの二か月半近く、あんなにも求めてやまなかったものを、ようやく手に入れたはずだったのだから。
というか、そうだ。逃げないと。新幹線で終点まで。
愛はAIで、なぜか母は僕と愛やその周囲の人たちを隔離したがっていて、母はAIの研究をしていて、だから、母の目が届かないところまで逃げなきゃで。
こんなところにいる場合じゃない。……そう約束したじゃないか、愛さん。
なんで君がその母さんと一緒にいるの?
母さんも、普段の態度はどこへやったの?
なんでそんな辛そうな声してるの?
「ちょっと待って」
頭のすぐ近くで母の声がする。なぜか見たこともない、青ざめた顔の母が頭に浮かんだ。続いて耳の裏を無造作に探る冷たい指の感触。
「起動ランプが付いてる……あなた、起きているの?」
「! 嘘……せ、先輩?」
嘘、はこちらのセリフだ。嘘であってくれ、なにもかも。
おそるおそる薄目を開けた僕の視界には、心配そうにのぞき込む二人の顔があった。愛なんてほとんど泣いている。
ねぇ、なんの涙だよ、それ。
「どこから聞いてたの?」
母が淡々と僕に確認する。いつも病院でサヴァン症候群の検査をしている人たちと似た声のトーンだ。似ているけど、少しだけ震えていた。
僕は質問に正直に答える。
「『緊急停止スイッチは、普通に生活していては絶対触れないような場所に……』ってところから」
「……もう隠し通すのは無理そうね。阿良々木さん。申し訳ないけれど、少しだけ席を外してくれないかしら。……全て説明するのが私の義務だから」
愛は一瞬不安と不服が混じったような顔をした後、「わかりました」と言って部屋を出ていく。
助けを求めるようにその背中に視線を送るが、彼女が振り返ることはなかった。
