17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 コツン。

 後ろの窓から小さな音が響き、振り返る。コツン、コツン、コツンッ。石でもぶつけられているかのような小さな音は、次第にゴン、ゴンというノックに似た音に変わる。
 おそるおそるカーテンを開けるとそこには、よく見知ったパチモンサンタが鬼の形相で待ち構えていた。

「! 日下部くん!?」
「馬鹿っ! 静かにしろ……!」

 窓ガラスの向こう側から、焦ったような日下部くんの声。なんで……というかここ、二階だぞ?
 慌てて窓を開けると、下からもう一人の声が聞こえた。

「愛知くん、は、早く……! 日下部に掴まれ!」

 両腕を真上に挙げた袴田先輩がいて、その上に日下部が驚異のバランス感覚で立っているようだった。まるでサーカスのような曲芸。ふらついているところを見るに、一刻の猶予もないことを瞬時に悟る。
 僕は迷うことなく日下部の手を取った。

「ぐぐぐぐ……パワー……っ!」

 袴田先輩が小声で叫ぶと、僕と日下部はゆっくりと庭の芝生の上に落下する。
 幸いにして怪我はなかった。あるのは疑問だけだ。

「あの、どうしてお二人が? あと橘さんも」
「いいから! 阿良々木、ちゃんの、元に行け、王子様よ!」

 袴田先輩が息も絶え絶えに言う。その脇を走り抜け、日下部が塀を乗り越えてひょいっと消えていく。「こっちだ」と小さく呼ぶ声がする。

「説明してる時間はない。俺は頃合いを見て橘を回収に行くから、君は日下部と一緒に、阿良々木ちゃんの元へ向かえ」
「でも、」
「部長命令だ! 早くしろ!!」

 力強い言葉に僕は弾かれたように立ち上がる。助走をつけ、どんくさく塀を乗り越えると、自転車にまたがった日下部が僕を待っていた。「早く乗れ」。僕はジャンプして荷台に飛び乗る。よろよろと動き出した自転車は、徐々にそのスピードを上げてゆく。
 僕より少し大きな背中から、怒りに満ちた声がする。

「てめぇ、愛を悲しませたらぶっ殺すって言っただろ」
「……僕の記憶では、言われてない」
「言ったってことにしろよ! 真面目か!」

 自転車はそのまま乙川沿いの通りに出て、人通りの多いほうへ進んでゆく。直線になり、タイヤはより激しく悲鳴を上げて加速していく。
 冷たい風が頬を切る。なんなら、ほぼ寝巻の身体にこの気温はこたえる……はずなのに、少しも寒くなかった。

 温かい。心が。

「ありがとう、日下部くん……ありがとう、皆……」
「うっせ……そういうのは、後にしろ……ぜぇ、はぁ」

 自分でも薄々察し始めていた。
 たぶんおかしいのは僕のほうだ。そんな僕なんかのために、彼らは今、巨大ななにかと戦ってくれている。たった四人で。
 呆れ果てるほどの変人どもだ、本当に。