17年前の明日、僕は空の青さを知る。



 今日はクリスマスイブ。
 リレー小説の中では愛とフィンランドでオーロラを見て過ごし、現在進行形で初詣はどこにいこうか、いっそ登山禁止のエアーズロックの上でゴリラの受験成功祈願でもしてこようかなんて話している。

 だけど、どれだけ空想の中でデートを重ねても、募っていく想いがあった。

 それは愛に恋心を抱いた日からすっかり失せかけていた、僕がこの世で一番嫌いな感情。

 蛇口から漏れた水滴のように少しずつ溜まり続けていたそれは、自室で一人のクリスマスを迎えた瞬間の寂しさと、もうあと一週間で自身の17歳の誕生日を一人で迎えるのだろうという予感も相まって、とうとうこらえきれず、心のバケツから溢れ出してしまった。



***
 メリークリスマス、愛子。
 なんでだろう。こんないい日なのに、変だな。

 虚しいよ……
 やっぱり僕は夢じゃない、本物の君の温もりが欲しいんだ。どうしても、もう一度君に会いたい。
***



 一度でも文字という形にしてしまったのがいけなかった。僕らの逃避行はとうとう終わりを迎え、僕は現実の凍えそうな夜に連れ戻される。

 そこには愛も、日下部も、袴田先輩も、橘もいない。優しい母もいない。残されたのはひとりぼっちの僕と、聞き飽きたカタカタというタイピング音だけ。
 寂しい。切ない。……虚しい。そしてもし、もし愛も今同じ気持ちを抱えているのだとしたら、苦しくて胸が張り裂けそうになる。

 ハロー、ハロー。どこかの誰か。サンタでもそれ以外でも、誰だっていい。お願いだから、僕をこの部屋から連れ出してくれ。

 本物の愛に会えるなら、他にはもうなにも要らない。こんな夢の世界も、要らない。頼むから、もう一度だけ……



***
 わかったよ賢人くん。今度こそ私たちが、あなたをその狭い牢獄から救い出してあげる。
***



 ……は?

 新しく更新された謎の一文。同時に、玄関のチャイムが鳴る。
 12月25日の深夜0時過ぎ。来客が訪れるにはあまり相応しいタイミングとは思えなかった。

 母のスリッパがパタパタと玄関に向かう。警戒したような足音からは明確な戸惑いが伝わってくる。やがてドア越しに小さく聞こえた声に、僕はハッと息を呑んだ。

「はじめまして。私、阿良々木愛と、申しまーす」

 そのテンションの低い話し方は間違いなく橘だった。橘が、阿良々木愛を名乗って我が家に訪れている。

「私、賢太さんの恋人。一緒にクリスマス、過ごしたい」
「あなたが阿良々木愛さん? はじめまして。申し訳ないけれど、今賢太は外出中で」
「そんなはず、ない。賢太さんはここにいると、言っている。私の第六感」

 母と橘の押し問答が続いている。

 母さんは愛を知らない? どうして? というか、そんなことよりどうして橘が愛のフリを?

 事情はわからないが、久しぶりに橘の顔を見たい気持ちもあり部屋を飛び出そうとした、そのときだった。