17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 あるとき、僕たちは王子様とお姫様だった。
 大きな国の王子だった僕は窮屈な生活に疲れ果て、平民の暮らしを見てみたいと城を抜け出し、街へと繰り出した。
 その最中、たまたま見かけた少女に一目惚れした僕は、彼女を妻とするため一旦城に戻った後、今度は従者を連れて少女を探し始めた。

 完全記憶能力を持っていた僕は彼女の顔を鮮明に覚えていた。一軒一軒家をめぐり、9982軒目にとうとう少女――愛子を見つけた。
 下級貴族であった愛子は、幼馴染の給仕とめっちゃ美人な継母とペットのゴリラと一緒に暮らしていた。彼女は家族全員城に抱き上げることを条件に僕の求婚を受け入れ、お姫様となった。
 無事夫婦になった僕と愛子は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

 あまりにベタな結末に、僕は作家としての実力不足を痛感した。



 またあるとき、僕たちは人工知能を搭載されたアンドロイドだった。
 20XX年。人間に奉仕する目的で生み出された僕と愛子は、AIの身でありながら感情を芽生えさせ、決して許されざる恋に落ちてしまった。

 ある夜、僕たちは人の目を盗んで駆け落ちし、愛の逃避行を開始した。
 しかし途中、僕を構成する部品に不良が発覚し、助けてくれた正義の科学者から余命半年を宣告されてしまう。
 僕は残り短い時間をどう過ごすか悩んだ末、正義の科学者に愛子を託して自らは行方をくらます。

 まさかのバッドエンドに、僕はケータイ画面の前であははと笑った。我ながら傑作だ。愛も画面の向こうで笑っていただろうか。



 またあるとき、僕たちはどこにでもいる普通のカップルだった。
 同じ高校の二年生と一年生だった僕と愛子は、購買に向かう途中の廊下で偶然出会う。その日の放課後、文藝部に勧誘された僕は部室で、さっき知り合ったばかりの愛子と運命の再会を果たす。

 その後は明るいムードメーカーの部長やダウナー系ギャルの副部長、愛子の幼馴染の生意気な部員とともに小説を書いたり、花火を見に行ったり、ディベートをしたり。
 親睦を深めていくうちに二人は自然と惹かれ合い、恋人同士になる。たった一人の母にも交際を歓迎され、僕たちは平和な毎日を過ごした。

 結局これが一番楽しくて、一週間ぐらい同じ設定で遊んだかもしれない。



 あるときなんて、愛が好きな小説『君の膵臓をたべたい』にならって、新幹線で終点のとある県まで行った。
 もちろんストーリーをなぞって、「はりがね」のラーメンを食べ、学問の神様に祈って、モツとキャベツとニラぐらいしか具が入っていない名物鍋料理を食べ、ホテル側の手違いで一緒の部屋に泊まって、高校生の分際でお酒を飲んで、『真実か挑戦』ゲームなるものをやって、同じベッドで眠った。
 ただ眠っただけで、潔白だ。ぶっちゃけ潔白じゃない逢瀬もたくさん重ねたけれど、このときばかりは原作にリスペクトを示した。



 こんなふうに二人はあらゆる生きとし生けるもの、それどころか、森羅万象になりきって遊び続けた。

 ただし、なにになっても僕は僕だったし、愛は愛だった。だからその間に愛という名の感情が生まれることは必然だった。
 運命とはかくも美しく、残酷だった。絶対に結ばれるのに、結ばれない。

 そんな日々を約一月半も重ねるうち、二学期が終わり、僕らは別々の高校で冬休みに突入した。