17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 無理やりの転校から約二週間経った一一月の初旬、僕はようやく小さな突破口を見出す。

 夜、自室にこもって、学校支給の端末からブラウザ版のWordを開く。前の学校で使っていたアカウントIDとパスワードなら問題なく覚えている。
 共有ファイルに、入れた。

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 賢人くん、どこに行っちゃったの?
 私たちもうお別れなの?

 嫌だよ。応えてよ賢人くん。
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 愛の悲痛な叫びに呼吸がより苦しくなる。
 僕が愛と繋がれる唯一の場所。ここだけは、なにがなんでも死守してみせる。

 まず、あくまでこれは小説のテイを保たなければならない。万が一あの女に見つかったとき、連絡手段だとバレたら一巻の終わりだ。

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 ハローハロー、愛子さん。遅くなって申し訳ない。

 どうやらうちの連中は、自我を持ったAIは危険だと判断したらしい。僕は城の地下に幽閉され、常に監視をつけられ、自由に君に会いに行くことすらできなくなってしまった。迂闊だったよ。

 君のほうは変わりないかい?
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 これでもできるだけ心配をかけないよう、ポップな感じを取り繕ったつもりだ。
 わずか数秒後、いきなり「qqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqq」という文字列が表示された後、すぐに消えて、新しい文章が作成され始める。
 それだけで彼女が相当動揺しているだろうことと、きっと何度もこのファイルを開いてくれていたであろうことがうかがえる。

 嬉しいが、ちょっと間抜けすぎたおかげで一気に肩の力が抜けてしまった。

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 あぁ賢人くん。無事でよかった。

 こっちは大丈夫だよ。幼馴染の給仕も、めっちゃ美人な継母も、ペットのゴリラも元気。でも皆あなたのことを心配しているよ。
 そして、会えなくなったのは私のせいだったんだね。私が余計な自我を持ってしまったから……
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 もうなんのこっちゃわからないけれど、連絡手段というよりは素人が書いたヘッタクソな小説といったほうが通りがいいだろう。セーフだ、セーフ。

 とにかく皆は普通に生活していることがわかり、一安心する。
 となると、なおさら僕だけ隔離されてしまった意味が不明だが、通学中は常に監視が付き、寄り道や帰宅後の不要な外出も一切禁じられているこっちの状況は、正しく伝わっただろうか。

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 じゃあ責任を取って、今すぐ私があなたを狭い牢獄から救い出してあげる。ちょっと待っててね。
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 ……ん? これはちゃんと伝わってるか? 怪しいか? 愛がなにを言いたいかよくわからない。
 なんて思っている間にもどんどん小説は更新されていく。そしてケータイ画面が文字で黒く塗り潰れるたび、僕は少しずつ、彼女の意図を理解し始める。