学校に行くために制服を着る。いつものブレザーではなく、学ランの。
鏡なんて見る気も起きない。どうせ今の僕は、死んだ魚より濁った目をしている。
あの波乱万丈のディベートの日の翌朝、母から突然告げられた退学および転校の話。
瞬く間に僕の視界は暗転し、色を失った世界で僕は母に必死の抗議をした。
なぜそんなことを勝手に決めるのか。
愛がAIだからってなにが問題だ。
僕は今日も文藝部の部室に行く、そう約束したんだと。
母はわずかに面食らったような顔をしたが、すぐに冷徹な仮面をつけ直した。「これは決定事項です。もうあの学校にあなたの籍はありません」と、淡々と絶望を突きつけた。
正直、母こそ真のAIなんじゃないかと疑った。この人でなしに感情なんてない。あると思いたくない。
それだけに飽き足らず、人でなしは僕からケータイを取り上げて一切の通信手段を奪うと、翌日から通い始める市内の別の高校からの学校支給として、SNSや通話機能を制限された新しいケータイ端末を寄越してきた。
この世に犯罪という概念があってくれなければ、踏みとどまれた自信がない。こんな形で司法に感謝する日が来るとは思わなかった。
一方、わずかに残った理性で冷静な分析を行うと、大いに疑問が浮かんでくる。
転校って一日二日で、しかも母の一存でできるようなものなのか。
それに学校支給として学業に必要のない機能を排したケータイを用意したとのことだったけれど、初登校日、クラスメイトに支給端末を利用している人が他にいるか探したが、聞いた限り一人もいなかった。
他にも不自然は、いろいろ。
具体的になにがどうなっているのかはわからないが、なにか大きな力が働いていることは間違いない。
それが個人の力で逃れられるような類のものじゃないことも。
せめてもの慰めは、新しい学校の人たちが皆優しく受け入れてくれたこと。
僕のサヴァン症候群に伴う記憶能力を見ても化物扱いしない。それどころか、入学後すぐの定期テストで満点を取ったら「神童が転校してきた!」とむしろ人気者のような扱いを受けた始末だ。
以前なら望んでいたはずの生活。彼らを恨む理由は一つもない。
でも……ここは少々空気が澄みすぎている。僕はもうあの変人しか棲めない狭い部室の空気に馴染みすぎてしまっていた。
鏡なんて見る気も起きない。どうせ今の僕は、死んだ魚より濁った目をしている。
あの波乱万丈のディベートの日の翌朝、母から突然告げられた退学および転校の話。
瞬く間に僕の視界は暗転し、色を失った世界で僕は母に必死の抗議をした。
なぜそんなことを勝手に決めるのか。
愛がAIだからってなにが問題だ。
僕は今日も文藝部の部室に行く、そう約束したんだと。
母はわずかに面食らったような顔をしたが、すぐに冷徹な仮面をつけ直した。「これは決定事項です。もうあの学校にあなたの籍はありません」と、淡々と絶望を突きつけた。
正直、母こそ真のAIなんじゃないかと疑った。この人でなしに感情なんてない。あると思いたくない。
それだけに飽き足らず、人でなしは僕からケータイを取り上げて一切の通信手段を奪うと、翌日から通い始める市内の別の高校からの学校支給として、SNSや通話機能を制限された新しいケータイ端末を寄越してきた。
この世に犯罪という概念があってくれなければ、踏みとどまれた自信がない。こんな形で司法に感謝する日が来るとは思わなかった。
一方、わずかに残った理性で冷静な分析を行うと、大いに疑問が浮かんでくる。
転校って一日二日で、しかも母の一存でできるようなものなのか。
それに学校支給として学業に必要のない機能を排したケータイを用意したとのことだったけれど、初登校日、クラスメイトに支給端末を利用している人が他にいるか探したが、聞いた限り一人もいなかった。
他にも不自然は、いろいろ。
具体的になにがどうなっているのかはわからないが、なにか大きな力が働いていることは間違いない。
それが個人の力で逃れられるような類のものじゃないことも。
せめてもの慰めは、新しい学校の人たちが皆優しく受け入れてくれたこと。
僕のサヴァン症候群に伴う記憶能力を見ても化物扱いしない。それどころか、入学後すぐの定期テストで満点を取ったら「神童が転校してきた!」とむしろ人気者のような扱いを受けた始末だ。
以前なら望んでいたはずの生活。彼らを恨む理由は一つもない。
でも……ここは少々空気が澄みすぎている。僕はもうあの変人しか棲めない狭い部室の空気に馴染みすぎてしまっていた。
