これは小説だ。創作だ! そう自分に言い聞かせるものの、現実逃避であると薄々気付いている。
もしここに書いてあることが事実だとしたら……つまり愛がAIだとしたら、きっと全て合ってしまうから。僕がこれまで感じてきた、普通の人間なら覚えてもいないような、極々小さな違和感の辻褄が。
AIという言葉に対する過剰反応。恋心という感情への異常な鈍さ。
そして愛がもし「そう」だったとして。今日のディベートでの反応的に、僕以外の部員は皆そのことを知っていたはず。
だからAIは感情を持ちうると、あんな頑なに主張したのだ。
そしてもう一つ、疑惑が湧いてくる。
ひょっとしたら母もこのことを知っていたのではないか? じゃなきゃいきなり「愛と関わるな」と言ってきたことに説明がつかない。
僕が小さい頃、油断のためかポロッとこぼされた「エンジニア系の仕事」をしているという情報。もしそれがAIのエンジニアなのだとしたら……いや、そんなわけ。
夕飯の食器を片付けにキッチンへと向かう。案の定、母はまだ明かりのない部屋で仕事をしていた。
カタカタ、カタカタ。
母はパソコンの画面を見られることを極端に嫌う。直接言われたわけではないが、いつも背中でしっかりとブロックされているように感じるのだ。
「母さん、あの、さっきはごめんなさい」
食器を洗うテイで自然とダイニングの机に座る母の後ろ側に回る。
「気にしていないわ」
こころなしか母の声がいつもより沈んでいる。
僕は水を勢いよく出して殊更に手を動かしていることを強調しつつ、上半身だけ傾けてパソコンの画面をのぞき込もうと試みる。暗闇の中、ぼんやりと画面が光っている。
もう少し。もう少……
「あとは私がやっておく、というか食洗器に突っ込んでおくから、早くお風呂に入っちゃいなさい」
「あ、うん」
僕はおとなしく母の命令に従う。
ほんの一瞬、この目にはっきりと焼き付いた「AI治験体」という文字列に放心しながら。
/
湯船に身体を沈めながら心も水底まで沈んでゆく。
……恋人がAIだった。しかも、知らなかったのは僕だけ。
あまりにも陰鬱とした黒い感情が体内で渦巻いている。
怒りというよりは悲しみに近い位置にある。失望とは違う、たぶん。
とにかくどんな感情であれ、このままではいけない。反駁できる根拠がなに一つない以上、負けを認めて、ちゃんとしないと。
でもちゃんとってなにを?
わからない、それさえ。自分一人じゃとても抱えきれない。こんなときなのに、いや、こんなときだからこそか、今欲しいのは本人からの言葉。
教えてくれ。僕はいったいどうしたらいい? せめて、君も一緒に抱えてくれ……
のぼせあがった頭で風呂を出ると部屋に直行し、再びケータイ画面を開く。
衝動に任せて画面をフリックすると、とても小説の体裁をなしているとは言えない、心の核が剥き出しの文章が形成されていく。
もしここに書いてあることが事実だとしたら……つまり愛がAIだとしたら、きっと全て合ってしまうから。僕がこれまで感じてきた、普通の人間なら覚えてもいないような、極々小さな違和感の辻褄が。
AIという言葉に対する過剰反応。恋心という感情への異常な鈍さ。
そして愛がもし「そう」だったとして。今日のディベートでの反応的に、僕以外の部員は皆そのことを知っていたはず。
だからAIは感情を持ちうると、あんな頑なに主張したのだ。
そしてもう一つ、疑惑が湧いてくる。
ひょっとしたら母もこのことを知っていたのではないか? じゃなきゃいきなり「愛と関わるな」と言ってきたことに説明がつかない。
僕が小さい頃、油断のためかポロッとこぼされた「エンジニア系の仕事」をしているという情報。もしそれがAIのエンジニアなのだとしたら……いや、そんなわけ。
夕飯の食器を片付けにキッチンへと向かう。案の定、母はまだ明かりのない部屋で仕事をしていた。
カタカタ、カタカタ。
母はパソコンの画面を見られることを極端に嫌う。直接言われたわけではないが、いつも背中でしっかりとブロックされているように感じるのだ。
「母さん、あの、さっきはごめんなさい」
食器を洗うテイで自然とダイニングの机に座る母の後ろ側に回る。
「気にしていないわ」
こころなしか母の声がいつもより沈んでいる。
僕は水を勢いよく出して殊更に手を動かしていることを強調しつつ、上半身だけ傾けてパソコンの画面をのぞき込もうと試みる。暗闇の中、ぼんやりと画面が光っている。
もう少し。もう少……
「あとは私がやっておく、というか食洗器に突っ込んでおくから、早くお風呂に入っちゃいなさい」
「あ、うん」
僕はおとなしく母の命令に従う。
ほんの一瞬、この目にはっきりと焼き付いた「AI治験体」という文字列に放心しながら。
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湯船に身体を沈めながら心も水底まで沈んでゆく。
……恋人がAIだった。しかも、知らなかったのは僕だけ。
あまりにも陰鬱とした黒い感情が体内で渦巻いている。
怒りというよりは悲しみに近い位置にある。失望とは違う、たぶん。
とにかくどんな感情であれ、このままではいけない。反駁できる根拠がなに一つない以上、負けを認めて、ちゃんとしないと。
でもちゃんとってなにを?
わからない、それさえ。自分一人じゃとても抱えきれない。こんなときなのに、いや、こんなときだからこそか、今欲しいのは本人からの言葉。
教えてくれ。僕はいったいどうしたらいい? せめて、君も一緒に抱えてくれ……
のぼせあがった頭で風呂を出ると部屋に直行し、再びケータイ画面を開く。
衝動に任せて画面をフリックすると、とても小説の体裁をなしているとは言えない、心の核が剥き出しの文章が形成されていく。
