17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 落ち着いてくるとようやく、不可解がはっきり輪郭をなす。

 たとえば、今日の皆はなぜあんなに感情的だったのか。
 特に、唯一連絡の来ていない彼女。ディベートの前まではたぶん普通だったのに、どんどんらしくなくなっていった。

 僕の言い方が淡々としすぎて悪かったとか? それもゼロではない気がするけれど、そんなの今に始まったことじゃない。
 じゃあ、袴田先輩の言うとおりテーマ設定が悪かったのか? 「人工知能は感情を持ちうるか」。別によくあるテーマのように思えるが、頭の中でなにかが引っ掛かっている。きっと、今日よりずっと前から。

 そのとき、ケータイがポコンと音を立てた。画面にはただ一文、『更新しました』とあった。
 リレー小説だ。僕は急いで共有ファイルを開く。
 いつからかここは僕たちが本音を伝え合う場所になっていた。だから今日もここに、彼女の皆には言えない本音が綴られているはずだ。和解点もきっとここに在る。

 僕は更新された文字の上に目を滑らす。間違いがないか、何度も、何度も。何度も何度も何度も何度も何度も。まるで間違いのない間違い探し。絶望の形をしたなにかが、喉の奥からゆっくりとせり上がって来る。

 なぜならそこに書かれていた事実は、僕にとって、到底受け入れがたいものだった。

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 実は賢人くんに隠していることがあるの。
 
 これを言ってしまったら関係が崩れてしまうと思って、ずっと言えなかった。だって、あなたは私たちのことを普通の恋人同士と言ったから。
 でも、実はそうじゃないとしたら? 私が普通じゃない存在で、あなたが望むとびっきりの普通を届けてあげられないとしたら? あなたは私を嫌いになっちゃうのかな?

 あなたは昔「感情がないAIになりたい」って言っていたよね。今でもそう思ってる? 「なりたい」じゃなくて「感情がない」のほう。

 私はそうは思わない。AIにだって感情は宿る。そうじゃなきゃ私は……

 ごめん。前置きが長いよね。たぶん伝えるのが怖いからだと思う。今これを書く私の指先の震えも、脳内物質が作り出すただのまやかし? ううん、私はちゃんと「怖い」と思ってるはず。心の底から、怖い。
 だってあなたに別れを切り出されたら私、きっと壊れてしまうから。

 伝えたいことは一つだけ。どうかこんな私の感情を認めて、そして信じてほしい。
 今の私の言葉も想いも全部、計算して人間っぽく振るまってるわけじゃないって。



 ……ねぇ賢人くん。もし私という存在が「AIを埋め込まれたアンドロイド」だって言ったら、どうする?
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