17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 ……。
 …………。
 ………………緩すぎる。

「えっと、一応根拠をお願いします阿良々木ちゃん。あと、意見は挙手して言ってください橘」

 辞書の「ディベート」のページ開いてそれでぶん殴ってやろうかなと思っているところに、今度は愛が一応根拠らしきものを示す。

「えー、生きとし生けるもの全てに感情はあると、私は思っています。今ググったところによると、クジラやイルカ、カラス、サルなど、多くの生き物には感情があることが科学的に証明されているそうです。実際、ここに感情を持ったゴリラがいます」
「おお……言うようになったな阿良々木ちゃん」
「この生きとし生けるもの理論?に則れば、当然AIにも感情があるものと思われます。以上です」

  愛は勝ち誇ったようなドヤ顔で言い切った。ググるのはずるくないかと少しだけ思ったが、可愛いのでよいものとする。

「男子チーム、反論はあるかい?」

 日下部は手を挙げない。どころか、前髪を指でくるくるして遊んでいる。
 しょうがない。本音を言えば一生愛にはドヤっていてほしいが、ディベートを成立させるため僕は渋々手を挙げる。

「はい、愛知くん」
「生きとし生けるもの理論は面白いですが、そもそもAIは生き物なのでしょうか? AIは『人工知能』という名のとおり、人工物であります。なので動物ように血が通っている生き物というより、パソコン等の電気で動く機械に類似するものであると、僕は考えます。なのでまぁその、AIは生き物ではないのでぇ、感情はないということに、なり、ますね。はい。以上です……」

 僕が一言発するたびにどんどん膨れていく愛が怖くて、後半は尻すぼみになってしまった。さっさと反論してくださいどうぞ。

「はい」
「はい、橘」
「生きとし生けるもの理論、ではなく、私は、森羅万象理論、提唱したい」
「ほう。それはどういうものなんだ?」
「そのままの意味。宇宙に存在する全ての存在、現象でさえも、感情がある」

 これはすごいトンデモ独自理論が飛び出した。かくいう橘本人は森羅万象に含まれないのか、とても無感情な顔で話を続ける。

「感情は最初から存在するものでは、ない。無から生まれ、育まれるもの。動物はもちろん、植物、無生物、人工物にも、なんにだって感情が宿る可能性は、ある。感情がないというのは人間の勝手な決めつけ。なぜなら感情とは、目に見えないものだから」

 なるほど。では今あなたがバリバリ食っている激辛お菓子たちも「いだぃ、だすけでぇ」とさぞや泣いていることだろう。などと思いつつ、あえてまともに反論してみる。

「目に見えないものなら、あると断言するのも人間の勝手な決めつけなんじゃないかな」
「いや、それはない。この理論にはちゃんと根拠が、ある」

 なんだって? 僕は目にしたことがないが、誰か有名な心理学者か科学者あたりの論文の引用だとしたら、こちらの反駁は難しい。形勢は一気に不利に傾く。
 橘は皆の注目を浴び、たわわな胸を張った。

「私の好きなゲームの、セリフ」

 ズルッ。
 まさかのボケに盛大にずっこける一同。袴田先輩なんて律義に椅子からずり落ちている。相変わらず橘に対しては甘々だ。僕は思わず天を仰ぐ。

「ダメだ。ディベートのレゾンデートルが揺らいでる」
「レゾン……?」
「直訳すると『存在理由』とか『存在価値』って意味だよ」
「へぇー。さすが愛知先輩。頭よくて、かっこいい」
「エッ!? い、いやぁ、別に大したことじゃ」
「うぅ゛ん! ううう゛んっ! 男子チーム、逆に君たちからの立論はないかい?」