17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 一〇月半ばともなるとさすがに風が冷たくなってきた。購買に行くため渡り廊下を歩く足は自然と早くなるし、吹き抜けになっている中庭の紅葉もいつのまにやら色付き始めている。

「おい!」

 と、購買の前で聞き慣れた声に呼びかけられた。
 彼が火曜のこの時間にここにいるということは、授業が想定外に早く終わったか、終業後猛ダッシュしてきたかのどちらかだろう。息切れしているところを見るにおそらくは後者だ。

「日下部くん、今日は購買なんだ。珍しいね」
「愛が今日弁当ない日だって言ってたから」
「そうなんだ」
「そうなんだ、じゃねぇよ。ほれ」

 放り投げられたものを反射でキャッチする。あんパンと牛乳。僕は焼きそばパンを買うつもりだったのだけど。
 僕の不満顔に思うところがあったのか、日下部は呆れたように説明する。

「お前のじゃねぇよ。愛に届けろって言ってんの」
「へ? それなら、」

 日下部くんが届ければいいじゃん、と言いかけて慌てて口を閉じた。それはさすがにデリカシーがなさすぎる。

「それならなんだよ」
「ツナマヨおにぎりも取って。彼女、ああ見えてよく食べるから」
「フン。生意気な」

 腕の中に押し込まれたのは一番高いエビカツサンド。この野郎め……

「じゃあ、ここに来ちゃう前にさっさと届けろよ」

 そう言って日下部はなにも買わずに去って行く。
 要するに、僕に愛の弁当を届けさせるためだけにわざわざ走って来てくれたということだ。小さくなってゆく背中に、心からの感謝を込めて「ありがとう」とつぶやいた。