17年前の明日、僕は空の青さを知る。




 その週の末、また母に連れられて病院を訪れていた。
 いつもの定期受診より若干周期が早まっている。緊急というわけではなさそうだけれど、僕はそれに小さな違和感を覚えた。

 ベッドに寝かされると、すぐに麻酔にかけられる。遠のく意識の中、視界の端にとある人物の影を見た気がした。

 母さん……?

 再び意識を取り戻したときには夜の八時を回っていた。今まで、こんなに長く拘束されていたことはない。上半身だけ起き上がり周りを見渡す。
「どうした」という医師の言葉に「母がここに来ていませんでしたか?」と尋ねる。

「君のお母さんがここに? いるわけないだろう、なにを寝惚けているんだ」

 憐れむような物言いに心の奥がしんと冷える。そうだ、そういえば僕は、ここでは実験動物だったんだ。
 早く皆のところに帰りたい。愛に会って、普通の男子高校生になりたい。

 車に戻ると、母は確かにいつもどおり運転席にいた。帰ってきた僕に目をくれることもなく、パソコンのキーボードを叩いている。
 カタカタ、カタッ、カタタタン、カタカタカタカタカタ……

「お待たせ、母さん」
「……」

 今日はいつもの返事すらない。よほど切羽詰まっているのだろうか、薄っすら不機嫌そうなオーラが滲んでいる。やがて乱暴に画面を折りたたむと、ガンッと両拳で強くハンドルを殴った。思わずヒッと声が漏れる。
 信じられないが、その後、母は何事もなかったように車を発進させ、前を向いたまま僕に尋ねた。

「今日は遅いから、外で食べていきましょう。なにがいいかしら」
「へっ? えっと、ファミレス、とか?」
「そんなのでいいの?」
「え? う、うん、全然」

 むしろいつもよりよっぽど健康的だと思う。ファミレスを目指し、母の車はいつもの帰宅ルートから外れる。
 そこまできてようやく気付いた。ファミレスどころか母との外食なんて、たぶん人生で初めてだということに。