17年前の明日、僕は空の青さを知る。



「ただいま。遅くなってごめんなさ」
「どこに行ってたの?」
「……ぇ?」

 まさに青天の霹靂だった。愛を駅まで送ってから家に帰ると、母が玄関で待っていた。
 いつか夢で見た風景と同じ。だけどこれは僕が望むような展開ではないと、母の醸し出す雰囲気で感じ取った。

「どこに行っていたのと聞いているの」
「えっと、こ……文藝部の友人の愛さ、阿良々木愛さんと、ショッピングに」
「阿良々木愛」

 母は愛さんの名前を復唱すると、少し考えるようにアゴに手を当てた。
 母が僕の交友関係に興味を示すなんて初めてのことだ。次に続く言葉が怖くて、喉からひとりでにヒュッと音が漏れる。
 やがて母は静かに、淡々と告げた。

「その子と関わるのはもうやめなさい」
「は!? なんで」
「いいからやめなさい!」

 いつもロボットのような母が初めて声を荒げた。ビクッと肩を縮こまらせながらも、僕はなにか言い返さなければと思う。
 が、そもそもなんで僕が愛と関わることが母にとって問題なのか。理由すら教えてくれない相手になにをどう伝えれば納得してくれるのか。

 結局、結論が出るより先に、母は「ご飯は温めて食べなさい」と言い残して自室にこもっていってしまった。追いかけてまで反論する合理性はない。言い訳では、ない。
 釈然としない気持ちを抱えたまま冷蔵庫を漁っていて、ハッとする。今日はハンバーグだった。だけどたぶん、いつもみたいに冷凍食品じゃない。母の手作り? そんなまさか……

「まずっ……くはないけど」

 焦げついた裏側を眺めながら母を思う。あの人はなにを考えているのか。わからない。昔から、ずっと。

 あの人は僕をどうしたいのだろう。
 どうして僕を生んだのだろう。
 あの人にとって、僕はいったいなんなのだろう。

 焦げを覆うようにケチャップを多めにかける。隣の部屋から途切れ途切れに聞こえてくるキーボードを叩くカタカタという音が、今日はいつも以上にわずらわしく感じた。