17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 このモールの三階には、以前と変わりがなければカフェが併設された本屋があったはずだ。まずはそこを目指してエスカレーターに乗る。

 建物内は冷房が効いていて涼しい。のに、右手だけが暖房でも吹きかけられてるように熱い。なぜ? 
 振り向いて見ると、阿良々木愛の手を握ったままだった。

「ご、ごめんなさい!」

 僕は慌てて阿良々木愛の手を宙にぶん投げる。「痛っ」と阿良々木愛が言う。
 ヤバいヤバいヤバいヤバい。ひたすら謝り倒していると、いつのまにかエレベーターが二階に着いていて、つまづいた僕は後ろ向きにこけた。もうめちゃくちゃだ。

「ふふっ」

 阿良々木愛が小さく息を漏らした。

「先輩緊張しすぎ。もうちょい肩の力抜きんよ」

 私だって緊張してるんだからと付け加えて、阿良々木愛は小走りで横を通り過ぎる。
 女神の隣に立って肩の力を抜けと? ただの人間風情に無茶を言わないでほしい。僕はため息を一つ吐いて、こころなしかいつもより楽しげな後姿を追った。

 無事?本屋に着いて、初めて阿良々木愛が質問をしてきた。

「小説の資料集めって、次の品評会のためですか?」
「うん。もちろんそれもあるし、阿良々木愛さんが書きたい恋愛ジャンルの」
「あの、先輩」
「参考になりそうな本を……ってなに?」
「ずっと言いたかったんですけど……毎回フルネームで呼ぶの、やめてくれません? ちょっと距離を感じて寂しいです」

 阿良々木愛は俯き気味にシュンとした表情を作る。
 よろしい、ならば戦争だ。

「わかった。その代わり、あ、愛さんも、敬語はもうやめてくれないかな。タメ口のほうが距離が近い感じがして、嬉しいから」
「……今日の愛知先輩、破壊力高すぎ。どこでそんなの覚えたん?」

 僕が最近恋愛指南本を読み漁っていることなど知る由もない阿良々木愛、もとい愛は、舌をべっと出して小説コーナーに消えていった。
 ……さて、僕も自分用の資料を探すとしよう。ドクンドクンとうるさい胸を深呼吸で落ち着かせ、参考書コーナーへと歩を進めた。