17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 夏休みの終盤、僕は鼻息荒く阿良々木愛にLINEをした。

『一緒に小説の資料集めでもしませんか?』

 この一言は、そのまま受け取るなら夏休み明けの品評会(次回は「花火」がテーマ)に向けての資料集めを共同でしよう、つまり一緒に本屋か図書館にでも行きましょうという誘いであり、もう一歩踏み込むならデートの誘いでもあるのだが、その実もっと深い含蓄がある。

 そこに阿良々木愛が気付いたかどうかはともかく、OKの返事をもらい、僕はこうして待ち合わせ場所のショッピングモールに向かっている。以前甚平を買った大きなモールだ。
 高校からもわりと近く、多くの生徒にとって学校終わりの遊び場の定番と化しているが、夏休みなので不意の遭遇を警戒しすぎる必要はないだろう。

 というか、僕のほうは冷やかしてくれる友達もいないのになにを警戒しろという話だ。警戒したい人生だった。

 閑話休題。
 花火大会の日、僕らは結ばれた。小説上で。
 そう、小説上だけの関係なのだ。あれを交際開始と判断するのは早計だということに、大会が終わり、皆でやいのやいの言い合いながら東岡崎駅まで戻り、健全な時間に解散したタイミングで気付いた。

 実際あの日以来、連絡はおろかリレー小説の更新すらずっとしていない。花火の帰り道も、地味に阿良々木愛とだけ一言も話してないし。
 そして日に日に募る不安。「あの告白はそもそも伝わっていたのか?」。僕は今日、それを確かめねばならない。伝わってなければテイク2。史上最ダサの二度手間である。

「お待たせしました! 愛知先輩!」
「待ってないよ。その、僕も今来たところ、だから」

 モールの入り口付近で合流した阿良々木愛の挨拶に、僕は常套句を返すので精一杯だった。おそらく、準備していなければそれすら危うかっただろう。
 今日の阿良々木愛は普段と一味も二味も違う。たぶん薄っすら化粧をしているし、爪もキラキラしている。白の膝丈ワンピースが絶妙な清楚感を演出しており、ローファーに小さめのカンカン帽、なにより、眼鏡をかけている。由緒正しき文学少女といった感じだ。

「どうですか?」

 前回、花火大会で言えなかった言葉。それを言う時が来た。緊張で乾く唇を一舐めし、僕は大仰に息を吸った。

「女神かと思った」

 ……ヤバい間違えた。間違いじゃないけど、間違えた。「似合ってるよ」ってサラッと言うだけのつもりだったのに。
 セクハラで訴えられたりしないだろうか。調子乗ってごめんなさい。

「そ、そんなの反則だら……っ」

 が、阿良々木愛はなんか顔を赤くして黙り込んでいる。誤魔化すチャンスだ。僕は無防備な阿良々木愛の手をひったくると、モールの中へと足を踏み入れた。