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「なぁ、愛知」
「なに?」
「なんで俺ら、二人で荷物番してんだろうな」
「それは日下部くんがグーを出すから」
「はいブーーーメラン」
キャッキャと楽しそうに買い出しに行く三人を見送り、僕と日下部は今、シートに並んで腰を下ろしている。
「見て見て! 双子コーデ! 可愛い!」後ろから知らない女の人の声が聞こえ、どちらともなくそっと距離を取った。
「知ってるか」日下部が口を開いた。「愛ってああ見えて結構モテるんだぜ」。
どこか誇らしげな響きに、なんで君が自慢してるんだよと言いたくなるが、一旦こらえて話の続きを待つ。
「俺が把握してるだけでも毎年一人は告られてるし、愛はそういうの自分から言うタイプじゃないから本当はもっと多いはずだ。一日に三人告られたときは、さすがに相談されたけどな」
「そ、そんなに?」
「天然人たらしなんだよ、あいつ。幼稚園のとき俺ん家に泊まりに来たことあんだけどさ、朝、俺が布団にお漏らしして母さんに叱られてるところに割って入ってきて『それ、漏らしたの私です!』って庇いやがったんだぜ。信じられねぇだろ? いっつもオドオドしてるくせに、人のためなら迷わずそういうことしちまうんだよ。さすがの母さんも呆れて笑ってたし、俺もその瞬間あいつに惚れたんだ」
「今まで聞いた恋のキッカケの中で、一番特殊かもしれない」
「るっせぇ。とにかく、あいつはお前が思ってるよりずっといい女なんだよ」
こんなに饒舌に話す日下部は珍しくて、少し驚く。彼の言葉には僕が知らない十数年分の重さが乗っている。
出会ってわずか二か月で少しでも彼女を知った気になっていた僕なんかに到底太刀打ちできる気持ちの大きさじゃないと、否応なく突きつけられた心地がした。
「でもさ、あいつ、『恋心って感情がわからない』って言うんだ」
ようやく僕の知ってる阿良々木愛の話が始まった。
「今までの告白もそうやって全部断ってきたんだ。それにあいつ、俺の気持ちにも気付かないぐらい鈍感だし。自分で言うのもなんだけど、俺って結構露骨だろ?」
「まぁ、うん」
苦笑いで応えるが、日下部は大して気にした様子もなくどこか遠くの景色を眺めている。
なにを見てるのかと思ったけど、たぶん、なにも見ていない。
「だから油断してた。当分の間は、あいつに彼氏なんてできっこないって。なのに……っ! さっき合流した瞬間あいつ、俺じゃなくて真っ先にお前に浴衣の感想聞いただろ? それがどんなに異常なことか、お前にわかるか?」
わからない。わからないことが、悔しい。
だけど同時に優越感に似たものも覚える。自分の中にこんなにも醜い感情が眠っていたことを初めて知る。
僕は阿良々木愛のことと同じぐらい、自分自身についても不感症だ。
日下部は最後に大きく息を吸って、小さくつぶやいた。まるで自分にも言い聞かせるように、はっきりと。
「俺はお前に愛を渡したくない」
「なぁ、愛知」
「なに?」
「なんで俺ら、二人で荷物番してんだろうな」
「それは日下部くんがグーを出すから」
「はいブーーーメラン」
キャッキャと楽しそうに買い出しに行く三人を見送り、僕と日下部は今、シートに並んで腰を下ろしている。
「見て見て! 双子コーデ! 可愛い!」後ろから知らない女の人の声が聞こえ、どちらともなくそっと距離を取った。
「知ってるか」日下部が口を開いた。「愛ってああ見えて結構モテるんだぜ」。
どこか誇らしげな響きに、なんで君が自慢してるんだよと言いたくなるが、一旦こらえて話の続きを待つ。
「俺が把握してるだけでも毎年一人は告られてるし、愛はそういうの自分から言うタイプじゃないから本当はもっと多いはずだ。一日に三人告られたときは、さすがに相談されたけどな」
「そ、そんなに?」
「天然人たらしなんだよ、あいつ。幼稚園のとき俺ん家に泊まりに来たことあんだけどさ、朝、俺が布団にお漏らしして母さんに叱られてるところに割って入ってきて『それ、漏らしたの私です!』って庇いやがったんだぜ。信じられねぇだろ? いっつもオドオドしてるくせに、人のためなら迷わずそういうことしちまうんだよ。さすがの母さんも呆れて笑ってたし、俺もその瞬間あいつに惚れたんだ」
「今まで聞いた恋のキッカケの中で、一番特殊かもしれない」
「るっせぇ。とにかく、あいつはお前が思ってるよりずっといい女なんだよ」
こんなに饒舌に話す日下部は珍しくて、少し驚く。彼の言葉には僕が知らない十数年分の重さが乗っている。
出会ってわずか二か月で少しでも彼女を知った気になっていた僕なんかに到底太刀打ちできる気持ちの大きさじゃないと、否応なく突きつけられた心地がした。
「でもさ、あいつ、『恋心って感情がわからない』って言うんだ」
ようやく僕の知ってる阿良々木愛の話が始まった。
「今までの告白もそうやって全部断ってきたんだ。それにあいつ、俺の気持ちにも気付かないぐらい鈍感だし。自分で言うのもなんだけど、俺って結構露骨だろ?」
「まぁ、うん」
苦笑いで応えるが、日下部は大して気にした様子もなくどこか遠くの景色を眺めている。
なにを見てるのかと思ったけど、たぶん、なにも見ていない。
「だから油断してた。当分の間は、あいつに彼氏なんてできっこないって。なのに……っ! さっき合流した瞬間あいつ、俺じゃなくて真っ先にお前に浴衣の感想聞いただろ? それがどんなに異常なことか、お前にわかるか?」
わからない。わからないことが、悔しい。
だけど同時に優越感に似たものも覚える。自分の中にこんなにも醜い感情が眠っていたことを初めて知る。
僕は阿良々木愛のことと同じぐらい、自分自身についても不感症だ。
日下部は最後に大きく息を吸って、小さくつぶやいた。まるで自分にも言い聞かせるように、はっきりと。
「俺はお前に愛を渡したくない」
