17年前の明日、僕は空の青さを知る。

「橘と日下部は知ってのとおり、我が文藝部は毎年有志を募って乙川の花火大会に参加している」
「参加というか、見るだけ。有志というか、暇人」

 橘が補足すると、阿良々木愛が「そうなんですね! 楽しそう!」とはしゃぎだす。

「今年は八月一日に開催だから、文藝部らしく風流な格好をしてくるように。意味は言わなくてもわかるよな?」

 要するに浴衣か甚平でも着てこいということと思われる。困った。そんなの持ってるやつが、長らくぼっちなんてやってるはずないだろう。

「当日は十六時に東岡崎駅北口側に集合。そこから無料開放してる図書館の駐車場まで皆で歩こう。会場にはキッチンカーや出店もあるぞ」

 なるほど、文藝部は基本暇人の集まりだからか参加者確認という工程は省くらしい。
 確か橘にはギャル友がいたはずだけど、こう見えて文藝部員としての自覚は強いようだ。あと阿良々木愛も初遭遇のとき友だちらしき人たちと一緒にいたけど、そのあたりは……

「友だち皆彼氏と見に行くって言ってたから、皆さんがいてよかったです!」

 なるほどなるほど、皆お姫様になってそれぞれの王子様とお楽しみというわけか。
 それにしても無自覚でこの場の全員を刺しに行く阿良々木愛、恐るべし。

「あぁ、それに関連して一つ、」

 おもむろに、袴田先輩がネクタイをきちっと締め直した。

「我が文藝部に伝わるジンクスを知っているか?」
「ジンクス、ですか?」
「花火大会の日、告白をした男女は必ず結ばれるというジンクスだ」
「それはもしかしなくても出会い系時代の名残ですか?」
「そうだ」

 なるほどなるほどなるほど、我々には一切関係がなさそうだ。
 その後、袴田先輩が「なにかわからないことがあればグループLINEで聞いてくれ」と締めくくり、話は終わった。待っていたように阿良々木愛がスッと僕の右隣の席に座り、耳元でささやく。

「リレー小説の続き、まだですか?」
「う゛っ」

 右側を向けない。彼女は今、どんな顔をしているのだろう。
 からかってるだけ? それとも照れてる?
 見ないほうが余計にあらぬ想像を掻き立てられてよろしくないが、かと言って確認する勇気もない。

 ついでに真正面からもまた無言の圧を感じ、顔を上げられない。二面楚歌。よって、僕の顔は左側に逃げる。

「……期待してますから。返事」

後頭部に投げかけられた声はとてもからかいとは思えない弱々しいもので。
「続き」から「返事」への些細な変化に、鈍感を演じる僕の足元が小さく揺らいだ。