17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 七月下旬。今日は一学期最後の部活だ。
 最近はイベントというイベントもなく、本棚にある例の出会い系時代の遺産を自由に読んだり、他の部員とおしゃべりするだけの時間。にもかかわらず、部室に向かう足取りは軽い。
 その一番の要因が彼女であるという事実について、今のところ鈍感なフリを貫けている。が、ふとした拍子に足を滑らしそうで、気が抜けない。

 部室に着くと日下部だけが先に来ているという一番よくあるパターンで、僕は軽い挨拶をして長テーブルの斜め対面に座った。それ以上もそれ以下もない。息苦しいと思うことも特にない。
 今、日下部が読んでいる本は『夜は短し歩けよ乙女』。この前までは『図書館戦争』シリーズだった。どういう心境の変化があって古めの純文学から比較的最近の恋愛小説にシフトしたのかは、聞くつもりはない。聞いてしまうと、ここが少しだけ息苦しい空間に変わってしまうような予感があった。

「……おい、愛知」

 不意に、正面から声がした。いつまでも続きの思いつかないリレー小説の執筆を一時中断して顔を上げると、いつのまにか日下部が僕の正面の椅子に移動していた。
 なにかを決心したような表情に、自分の喉から緊張の証と疑わしき音が鳴る。

「よっ、お疲れさん! 二人とも今日もお早いな。熱心で素晴らしい」
「部長、入室が早い。もう少し待てば、面白いものが、見れた」

 ピりついた空気を打ち破りやってきたのは袴田先輩と橘。今度は口から明確に安堵の息が漏れる。

「チッ。見世物じゃねぇんだよ橘」

 セリフほどには怒っていないテンションで日下部がたしなめる。同時に、最後の部員が到着する。

「遅くなりました! きゃっ」
「お前さぁ、その自分の声のデカさに驚く芸いつまで続けんだよ。もう一六年目だぞ?」
「別に芸じゃないし! それを言うならミッくんもツンデレ芸一七年目だら。いい加減素直になりんよ」
「誰がツンデレだコラ」

 にわかにいつもの雰囲気が帰ってくる。
 やっぱり僕はこの酸素濃度が一番好きだ。ずっと今のままでいられたらと思う。たった二か月弱で、僕にとってここはそういう場所になっていた。

 諸行無常。橘がホワイトボードに文字を書き始める。「毎年恒例 花火大会!」と、ギャルらしからぬ達筆を見て、僕はこの部室に初めて来た日の「ようこそ文藝部へ!」の文字を思い出す。
 袴田先輩が仰々しく皆の前に立つ。