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今、僕の目の前には三つの死体がある。
「……」
死体その一。橘京華。先日行われた実テで大爆死してしまったらしい。
曰く、部活動休止期間にこれ幸いと、ギャル仲間たちと遊び歩いていたのが原因だとか。
「……」
死体その二。日下部ミツル。先日行われた実テで大爆死以下略。
曰く、七月頭に予定されている品評会のための恋愛小説の執筆に夢中になって、勉強を全くしなかったせいだとか。
「……」
死体その三。袴田零士先輩。先日行われた実テ以下略。
曰く、普通にダメだったとか。
「あの、皆さん大丈夫ですか? お茶でも淹れましょうか」
「「「………………」」」
机に突っ伏した三人に声をかけるが、返事がない。ただの屍のようだ。
「お疲れ様で……きゃっ! どうしたんですか皆さん!」
遅れてやってきた阿良々木愛の生気ある表情を見るに、死体が四つに増える心配はなさそうだ。
阿良々木愛の声に反応して、死体その二がガバッと顔を上げた。
「恋愛小説、書けたぞ」
「え」
「別に俺はどうでもよかったんだけど、お前が早く読みたいって言うもんだからしかたなくな」
「えっと、二日前までテス」
「んなこたぁどうでもいいんだよ。ほら、全体の共有フォルダに入れてあるから、さっさと読め。んで感想よろしく。ついでにお前らも読め」
昨年の活動実績を聞く限りこれがほぼ処女作だというのに、大した自信だ。袴田先輩もこれを受けてゆっくりと起き上がり、宣言する。
「全員分をまとめて読むのも大変だし、完成した人のものから順次読んでいこう。というわけで、ただいまより今年度第一回目の品評会を開始します!」
と、皆でフォルダを開いて日下部の作品を読もうとしていたところ、
「あの、作品が二つあるんだけど。どっちが日下部の? というか、もう一人書き終えてるの誰?」
「あ、僕です」
「愛知くんまで!? だけど、この前までテス……」
袴田先輩が言いかけて、言葉を切る。
「こっちの作品、10万字、超えてる」
橘が続けて言うと、ほんの一瞬だけ、人外を見るような視線がいくつか刺さった。いつもの教室でのよりもっとずっと、何倍も痛い。
「日下部の作品は、こっちの5千字ちょっとのやつだな?」
「っす」
「じゃあ、今日はこっちを読もう。愛知くんの作品は読むのにそれなりに時間がかかるだろうから、それぞれ手が空いたタイミングで読み進めてくれ」
そうか、10万字を読むのは数分の作業じゃないんだ。当たり前のことが当たり前じゃないことをすっかり忘れていた。
ここにいると、自分が普通になれたんじゃないかとつい錯覚してしまう。この前確認したはずなのに。僕自身はなにも変わってないって。
「うわぁ、どっちも読むの楽しみです! 愛知先輩のは家でゆっくり堪能させてもらいますね!」
阿良々木愛の笑顔がいくぶん部室の空気を軽くする。
少しも無理を感じさせない声。彼女はなぜ僕のことが気味悪くないのだろうか。逆に、僕のほうが人外を見るような目を向けてしまった。
すごく救われたのに。ごめんなさい。
今、僕の目の前には三つの死体がある。
「……」
死体その一。橘京華。先日行われた実テで大爆死してしまったらしい。
曰く、部活動休止期間にこれ幸いと、ギャル仲間たちと遊び歩いていたのが原因だとか。
「……」
死体その二。日下部ミツル。先日行われた実テで大爆死以下略。
曰く、七月頭に予定されている品評会のための恋愛小説の執筆に夢中になって、勉強を全くしなかったせいだとか。
「……」
死体その三。袴田零士先輩。先日行われた実テ以下略。
曰く、普通にダメだったとか。
「あの、皆さん大丈夫ですか? お茶でも淹れましょうか」
「「「………………」」」
机に突っ伏した三人に声をかけるが、返事がない。ただの屍のようだ。
「お疲れ様で……きゃっ! どうしたんですか皆さん!」
遅れてやってきた阿良々木愛の生気ある表情を見るに、死体が四つに増える心配はなさそうだ。
阿良々木愛の声に反応して、死体その二がガバッと顔を上げた。
「恋愛小説、書けたぞ」
「え」
「別に俺はどうでもよかったんだけど、お前が早く読みたいって言うもんだからしかたなくな」
「えっと、二日前までテス」
「んなこたぁどうでもいいんだよ。ほら、全体の共有フォルダに入れてあるから、さっさと読め。んで感想よろしく。ついでにお前らも読め」
昨年の活動実績を聞く限りこれがほぼ処女作だというのに、大した自信だ。袴田先輩もこれを受けてゆっくりと起き上がり、宣言する。
「全員分をまとめて読むのも大変だし、完成した人のものから順次読んでいこう。というわけで、ただいまより今年度第一回目の品評会を開始します!」
と、皆でフォルダを開いて日下部の作品を読もうとしていたところ、
「あの、作品が二つあるんだけど。どっちが日下部の? というか、もう一人書き終えてるの誰?」
「あ、僕です」
「愛知くんまで!? だけど、この前までテス……」
袴田先輩が言いかけて、言葉を切る。
「こっちの作品、10万字、超えてる」
橘が続けて言うと、ほんの一瞬だけ、人外を見るような視線がいくつか刺さった。いつもの教室でのよりもっとずっと、何倍も痛い。
「日下部の作品は、こっちの5千字ちょっとのやつだな?」
「っす」
「じゃあ、今日はこっちを読もう。愛知くんの作品は読むのにそれなりに時間がかかるだろうから、それぞれ手が空いたタイミングで読み進めてくれ」
そうか、10万字を読むのは数分の作業じゃないんだ。当たり前のことが当たり前じゃないことをすっかり忘れていた。
ここにいると、自分が普通になれたんじゃないかとつい錯覚してしまう。この前確認したはずなのに。僕自身はなにも変わってないって。
「うわぁ、どっちも読むの楽しみです! 愛知先輩のは家でゆっくり堪能させてもらいますね!」
阿良々木愛の笑顔がいくぶん部室の空気を軽くする。
少しも無理を感じさせない声。彼女はなぜ僕のことが気味悪くないのだろうか。逆に、僕のほうが人外を見るような目を向けてしまった。
すごく救われたのに。ごめんなさい。
