17年前の明日、僕は空の青さを知る。

 僕はAIになりたい。
 だってAIならばどんなに鋭利な言葉を投げつけられても、もはや投げつけてすらもらえないような孤独の中でも、きっとなにも感じず、傷付かず、淡々と日々を乗り越えてゆけただろうに。

 県立虹ヶ丘(にじがおか)高校2年1組の空気は今日も薄い。たぶん、僕だけ皆より標高の高い場所にいるのだと思う。

「今日は6月1日だから、出席番号1番! ……は、愛知か。この問題を解いてみろ」

 まだ眠気の覚めやらない一限目。窓の外は梅雨真っ盛り。しかも数Bという世間一般的に文系の天敵とみなされる科目の授業ときたせいか、教室全体がずっしりとした倦怠感に包まれる中、先生が出席番号1番・愛知賢太(あいちけんた)を指名する。

『初項3、公差2の等差数列の第20項から第30項までの和は?』

 これは一昨日宿題で出された問題集の66ページ、問4(2)の応用だから間違えようがない。

「561です」

 即答した瞬間、ギョッとしたような視線がいくつか僕を突き刺した。先生までも化物を見るような表情をしている。
 あぁ、またやってしまった……
 先生は怯え顔をサッと作り笑いの下に仕舞い込むと「正解」と端的に言って、何事もなかったかのように次の問題に移る。クラスメイトの視線もすでに黒板に戻っている。

 慣れたものだ。だけど僕は四年以上経った今でも、この腫れもののような扱いには慣れることができない。
 僕だけがいつも一人山頂に取り残される。


 終業を告げるチャイムが鳴る。二限目は体育。唯一、僕が化物じゃなくなる時間。
 カバンから体操着を取り出し、僕はそそくさと下山の準備を始めた。