/
テスト期間に突入した土曜、僕は母に連れられて地元の大病院を訪れていた。
一月に一度の定期通院。というのも、僕ほど記憶能力に特化したサヴァン症候群は珍しいらしく、医学の発展のためという名目で物心ついた時から様々な検査に協力させられているのだ。
具体的になにを研究しているのかは定かでないが、唾液を採取されたり、脳波を測定されたり、麻酔で眠らされたり。
……少し物騒なのも混じっているけれど、今のところ害はない。
「唾液コルチゾール6.4ng/mL。唾液オキシトシン27pg/mL。
コルチゾールは採取時刻を考慮して想定範囲内。オキシトシンの値は……これまでのデータと比較して大幅な上昇傾向あり、と」
害はないとは言っても、僕はこの検査の時間が大嫌いだ。医者は僕をまるで物のように扱う。目も見てくれなければ、ろくに会話もない。母はもちろん付き添ってくれず、初めて来た日は恐怖のあまり大泣きしながら医者から逃げ惑ったことを、今でもはっきりと覚えている。
今日は検査中ずっと阿良々木愛や文藝部の皆のことを考えていたから、少しはマシだったけど。
「心拍数72bpm。血圧118/84mmHg前後。脳波、特記すべき異常なし。皮膚電気反応、前回より上昇……ふぅん。なるほどね。
はい、今日の検査は終了。もう帰っていいよ」
こうして帰宅のために無機質な塩ビシートの廊下を一人で歩いていると、自分がいかに孤独で無価値な人間かを思い出す。水曜と木曜のたった二日、部活で人と話す機会ができただけで、なにかが変わったような気がしていた。
でもテスト期間に入れば結局僕はまた空気。文藝部の皆が優しい人たちなだけで、僕自身がまるで成長していない。
駐車場の車の運転席。母はいつもどおり、出先でもノートパソコンとにらめっこしていた。
「ただいま、母さん。お待たせ」
「待ってないわ」
「……あの、母さん」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。ごめん」
待ってたわって言ってよ。そんな聞き分けのない子どもみたいな言葉が頭に浮かび、呆れて打ち消す。
母もそれ以上深掘りすることなく、パソコンを閉じると淡々と車を出す。静かなエンジン音。母との無言の時間にはとっくに慣れたつもりでいたのに、今日はやけに物悲しい。中途半端に人と話す楽しさを知ってしまったせいだろうか。
僕はケータイを取り出してリレー小説のファイルを開いた。
テスト期間に更新なんて絶対鬱陶しいと思われる。わかっているのに、今の気持ちを吐き出さずにいられない。僕はきっと母からもらえない分の温もりを、あの歳下の少女に求めてしまっている。
テスト期間に突入した土曜、僕は母に連れられて地元の大病院を訪れていた。
一月に一度の定期通院。というのも、僕ほど記憶能力に特化したサヴァン症候群は珍しいらしく、医学の発展のためという名目で物心ついた時から様々な検査に協力させられているのだ。
具体的になにを研究しているのかは定かでないが、唾液を採取されたり、脳波を測定されたり、麻酔で眠らされたり。
……少し物騒なのも混じっているけれど、今のところ害はない。
「唾液コルチゾール6.4ng/mL。唾液オキシトシン27pg/mL。
コルチゾールは採取時刻を考慮して想定範囲内。オキシトシンの値は……これまでのデータと比較して大幅な上昇傾向あり、と」
害はないとは言っても、僕はこの検査の時間が大嫌いだ。医者は僕をまるで物のように扱う。目も見てくれなければ、ろくに会話もない。母はもちろん付き添ってくれず、初めて来た日は恐怖のあまり大泣きしながら医者から逃げ惑ったことを、今でもはっきりと覚えている。
今日は検査中ずっと阿良々木愛や文藝部の皆のことを考えていたから、少しはマシだったけど。
「心拍数72bpm。血圧118/84mmHg前後。脳波、特記すべき異常なし。皮膚電気反応、前回より上昇……ふぅん。なるほどね。
はい、今日の検査は終了。もう帰っていいよ」
こうして帰宅のために無機質な塩ビシートの廊下を一人で歩いていると、自分がいかに孤独で無価値な人間かを思い出す。水曜と木曜のたった二日、部活で人と話す機会ができただけで、なにかが変わったような気がしていた。
でもテスト期間に入れば結局僕はまた空気。文藝部の皆が優しい人たちなだけで、僕自身がまるで成長していない。
駐車場の車の運転席。母はいつもどおり、出先でもノートパソコンとにらめっこしていた。
「ただいま、母さん。お待たせ」
「待ってないわ」
「……あの、母さん」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。ごめん」
待ってたわって言ってよ。そんな聞き分けのない子どもみたいな言葉が頭に浮かび、呆れて打ち消す。
母もそれ以上深掘りすることなく、パソコンを閉じると淡々と車を出す。静かなエンジン音。母との無言の時間にはとっくに慣れたつもりでいたのに、今日はやけに物悲しい。中途半端に人と話す楽しさを知ってしまったせいだろうか。
僕はケータイを取り出してリレー小説のファイルを開いた。
テスト期間に更新なんて絶対鬱陶しいと思われる。わかっているのに、今の気持ちを吐き出さずにいられない。僕はきっと母からもらえない分の温もりを、あの歳下の少女に求めてしまっている。
