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どうしよう困った。今日の2―1の帰りのホームルームは、いつも話が長い海老原先生には珍しく爆速で終了した。三歳の娘の誕生日なのだと惚気ていたから、そのためだろう。
で、なにが困ったかというと。
昨日は日下部がうちのクラスに勧誘に来ていた分、部室への到着が遅くなった。だから先に袴田先輩と橘が部室にいた。
だけど通常の2―7、2―8、3―4、そして1―4のホームルーム終了時間と部室への移動距離から逆算すると、このまままっすぐ部室に向かうと約5分、日下部と二人きりの時間が発生する。
日下部は間違いなく僕のことが嫌いだ。上手くやることができるだろうか。そんな不安と戦いながら歩いているうちに――いつのまにか部室の前に立っていた。おかしいな、廊下くん、昨日より短くなってない? イメチェンした?
……冗談はさておき。こうなりゃもう腹をくくるしかない。それに今日の僕には一つ、大きな武器がある。
「お疲れ様です」
「……お疲れ」
案の定、日下部が一人で部室の端の椅子に座っていた。
ドアを開けた瞬間慌ててケータイを『金閣寺』に持ち替えようとしたように見えたが、僕の顔を確認するとがっかりしたように再びケータイに視線を落とした。
さぁ。高校二年目にして初の友人ができるか、勝負どころだ。僕は懐からえいやっと武器を引き抜いた。
「『金閣寺』、読んだよ」
「へぇ……へ?」
「美への執着とか金閣を焼くに至る動機とかは正直全く共感できなかったけど、僕も障害というか、まぁこんなだからさ、『吃りは,いうまでもなく,私と外界とのあいだに一つの障碍を置いた。最初の音がうまく出ない。その 最初の音が,私の内界と外界との間の扉の鍵のようなものであるのに,鍵がうまくあいたためしがない』って部分とか、ちょっと自分と重なるものがあったりして」
「……はぁ」
「く、日下部くんは『金閣寺』のどういうところが好きなの?」
「え、いや、その……恋人と金閣寺のてっぺんに登って愛を囁くシーン……とか?」
「?」
あれ、僕は違う『金閣寺』を読んでしまったのだろうか。なんだか全然知らないシーンが出てきたんだが……
「よっ! お疲れさん! 早いねぇ二人とも」
「お疲れ様……密室に、思春期の男が二人。なにも起こらない、わけもなく」
「橘お前BLもいけるんだっけ? ……というかその、二人ともここは皆が使う部室だから、ほどほどにな」
「見てのとおりなにも起こってないっすけど!?」
そうこうしているうちに袴田先輩と橘がやってきた。
どう見ても安堵の息を吐く日下部の姿に、どうやら僕の作戦は失敗に終わったらしいと悟る。
どうしよう困った。今日の2―1の帰りのホームルームは、いつも話が長い海老原先生には珍しく爆速で終了した。三歳の娘の誕生日なのだと惚気ていたから、そのためだろう。
で、なにが困ったかというと。
昨日は日下部がうちのクラスに勧誘に来ていた分、部室への到着が遅くなった。だから先に袴田先輩と橘が部室にいた。
だけど通常の2―7、2―8、3―4、そして1―4のホームルーム終了時間と部室への移動距離から逆算すると、このまままっすぐ部室に向かうと約5分、日下部と二人きりの時間が発生する。
日下部は間違いなく僕のことが嫌いだ。上手くやることができるだろうか。そんな不安と戦いながら歩いているうちに――いつのまにか部室の前に立っていた。おかしいな、廊下くん、昨日より短くなってない? イメチェンした?
……冗談はさておき。こうなりゃもう腹をくくるしかない。それに今日の僕には一つ、大きな武器がある。
「お疲れ様です」
「……お疲れ」
案の定、日下部が一人で部室の端の椅子に座っていた。
ドアを開けた瞬間慌ててケータイを『金閣寺』に持ち替えようとしたように見えたが、僕の顔を確認するとがっかりしたように再びケータイに視線を落とした。
さぁ。高校二年目にして初の友人ができるか、勝負どころだ。僕は懐からえいやっと武器を引き抜いた。
「『金閣寺』、読んだよ」
「へぇ……へ?」
「美への執着とか金閣を焼くに至る動機とかは正直全く共感できなかったけど、僕も障害というか、まぁこんなだからさ、『吃りは,いうまでもなく,私と外界とのあいだに一つの障碍を置いた。最初の音がうまく出ない。その 最初の音が,私の内界と外界との間の扉の鍵のようなものであるのに,鍵がうまくあいたためしがない』って部分とか、ちょっと自分と重なるものがあったりして」
「……はぁ」
「く、日下部くんは『金閣寺』のどういうところが好きなの?」
「え、いや、その……恋人と金閣寺のてっぺんに登って愛を囁くシーン……とか?」
「?」
あれ、僕は違う『金閣寺』を読んでしまったのだろうか。なんだか全然知らないシーンが出てきたんだが……
「よっ! お疲れさん! 早いねぇ二人とも」
「お疲れ様……密室に、思春期の男が二人。なにも起こらない、わけもなく」
「橘お前BLもいけるんだっけ? ……というかその、二人ともここは皆が使う部室だから、ほどほどにな」
「見てのとおりなにも起こってないっすけど!?」
そうこうしているうちに袴田先輩と橘がやってきた。
どう見ても安堵の息を吐く日下部の姿に、どうやら僕の作戦は失敗に終わったらしいと悟る。
