17年前の明日、僕は空の青さを知る。

「学校はどう?」
「とても楽しいよ。友だちも皆優しいし」
「そう」

 まるで温度を感じない返事でピシャリと締められる。約10年間、寸分違わず繰り返されているやり取り。

 小学生の頃は心からそう答えていたけど、中学からは母に心配をかけないための嘘になった。何回か本当のことを言おうと思ったこともあるけど、やめた。
 もし「実は友だちがいないんだ」とか「いじめられてるんだ」なんて言ったら、困らせてしまうだろうから。そうしたらもう学校はどう?なんて質問すらしてくれなくなるかもしれない。



 だけどね母さん……今日だけは違うんだ。

 友だち、ではないかもしれないけれど、部活仲間が四人もできたんだよ。
 友だちってなんていう子?と一度も聞かれなかったことは今までは助かっていたけど、今日は聞いてもらえないことが少し寂しい。嘘じゃないから、ちゃんと名前も言えるんだよ。

 袴田零士先輩。
 橘京華。
 日下部ミツル。
 阿良々木愛。

 少し変わった人たちだけど、皆いい人たちなんだ。僕、文藝部に入って小説を書き始めたんだ。
 ねぇ、母さん。

「お風呂湧いてるから、先に入っちゃいなさい」

 母はそう言って自分の分の食器を片付け始めた。急いでいるように見えるのはまだ仕事が残っているからで、それは僕から逃げる口実ではない。たぶん、きっと。
 母が去った後、僕はできるだけゆっくり食べていたご飯の残りを一気に口の中に押し込んで、食器を食洗器の中に並べた。