***
AIになりたいといつも思っていた。
人から会話(プロンプト)を入力される。求められた無難な返事を出力する。ただそれだけのやり取りができればいいのに、どうして感情とかいうバグが介入してしまうのだろう。
感情は人生を苦しくする。生き方が下手な人間の場合は、特に。
だから感情なんて要らない。そんなもの食って喜ぶのは変態だけだ。凡人にはただ苦しくて、辛くて……虚しい。
もし総理大臣になったら。真っ先に感情を廃止するだろう。きっと支持率はうなぎのぼりだ。
もし小説家になったら。感情のない世界を描こう。疲弊した現代人の、束の間の現実逃避の場所として。
もし神様になったら。世界中の人から感情を奪ってあげよう。そうすりゃ瞬く間に戦争なんてなくなるだろう。
ハロー、ハロー。誰かこの声が聞こえているのなら、どうかこの不要なバグを消し去ってください。それが叶わないならせめて、素敵な感情を教えてください。
虚しさなんて覚える暇もないような、とびっきり素敵な感情を。
***
袴田先輩に言われたとおり感情と向き合った結果、感情全否定のポエムが出来上がってしまった。
こんなジメジメした文章を阿良々木愛に読ませるのか? いやでも、これが僕の偽らざる本音なのだ。新入部員の僕は先輩に言われたとおりに小説の第一歩を踏み出しただけ。
なんて、誰にともなく言い訳しつつ文章を保存し、阿良々木愛のLINEに『リレー小説の第一話完成しました』と簡潔に打ち込む。
思い切って送信ボタンを押すと同時に、部屋に設置されたワイヤレスの呼び出しチャイムが鳴る。夕飯ができた合図だ。急いで一階のダイニングに降りると、すでに二人分の食事がテーブルに向かい合わせに並んでおり、その一方に母が座っていた。
「ごめん、お待たせ」
「待ってないわ」
言葉のまま、母は先にご飯を食べ始めていた。今日は冷凍のサバの味噌煮とインスタント味噌汁、パックのご飯。それからビタミン補給用のゼリー飲料だ。
非常に標準的な我が家の献立。まだ友だちと呼べる存在がいた小学生のとき、何気なく食卓の話題になってありのままに話したら「賢太くん家おかしいよ」「虐待だ」と少し騒ぎになってしまったのだけれど、僕はそうは思わない。
だって母は忙しいし、なにより母も同じものを食べているのだし。
サバを箸でほぐしながら、母が問う。
AIになりたいといつも思っていた。
人から会話(プロンプト)を入力される。求められた無難な返事を出力する。ただそれだけのやり取りができればいいのに、どうして感情とかいうバグが介入してしまうのだろう。
感情は人生を苦しくする。生き方が下手な人間の場合は、特に。
だから感情なんて要らない。そんなもの食って喜ぶのは変態だけだ。凡人にはただ苦しくて、辛くて……虚しい。
もし総理大臣になったら。真っ先に感情を廃止するだろう。きっと支持率はうなぎのぼりだ。
もし小説家になったら。感情のない世界を描こう。疲弊した現代人の、束の間の現実逃避の場所として。
もし神様になったら。世界中の人から感情を奪ってあげよう。そうすりゃ瞬く間に戦争なんてなくなるだろう。
ハロー、ハロー。誰かこの声が聞こえているのなら、どうかこの不要なバグを消し去ってください。それが叶わないならせめて、素敵な感情を教えてください。
虚しさなんて覚える暇もないような、とびっきり素敵な感情を。
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袴田先輩に言われたとおり感情と向き合った結果、感情全否定のポエムが出来上がってしまった。
こんなジメジメした文章を阿良々木愛に読ませるのか? いやでも、これが僕の偽らざる本音なのだ。新入部員の僕は先輩に言われたとおりに小説の第一歩を踏み出しただけ。
なんて、誰にともなく言い訳しつつ文章を保存し、阿良々木愛のLINEに『リレー小説の第一話完成しました』と簡潔に打ち込む。
思い切って送信ボタンを押すと同時に、部屋に設置されたワイヤレスの呼び出しチャイムが鳴る。夕飯ができた合図だ。急いで一階のダイニングに降りると、すでに二人分の食事がテーブルに向かい合わせに並んでおり、その一方に母が座っていた。
「ごめん、お待たせ」
「待ってないわ」
言葉のまま、母は先にご飯を食べ始めていた。今日は冷凍のサバの味噌煮とインスタント味噌汁、パックのご飯。それからビタミン補給用のゼリー飲料だ。
非常に標準的な我が家の献立。まだ友だちと呼べる存在がいた小学生のとき、何気なく食卓の話題になってありのままに話したら「賢太くん家おかしいよ」「虐待だ」と少し騒ぎになってしまったのだけれど、僕はそうは思わない。
だって母は忙しいし、なにより母も同じものを食べているのだし。
サバを箸でほぐしながら、母が問う。
