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古本屋に寄って小説を数冊買ってから家に帰ると、電気が付いていない。でもそれだけでは家主が不在かどうかはわからない。
ドアノブを回すと、鍵を使わずともドアが開く。どうやら母はもう仕事から帰っているようだ。
リビングには案の定、暗闇の中でノートパソコンと向き合う母の姿があった。
「ただいま、母さん」
声をかけるがいつもどおり返事はなかった。まだ仕事中なのだろう。よく知らないが、エンジニア系の仕事をしていると幼い頃に一度聞いた覚えがある。
カタカタという音を背に僕は二階の自室へと向かう。買ってきた小説にパラパラっと目を通した後、そういえば、今日は宿題の他にリレー小説を書かなければいけないのだったと思い出す。これも夕飯の前に済ませてしまおう。
勉強机に座ってケータイを開く。僕も阿良々木愛もお互い自前のパソコンを持っていないので、ケータイ版のWordアプリで編集権限を共有し、順番に文章を綴ってゆくことになった。第一走者は僕だ。
とりあえず主人公は僕が感情移入しやすいように男性にしようか。あぁでも、そうすると阿良々木愛が書くときに難しくなってしまうな。
でも僕は初心者で……あっ、阿良々木愛も同じか。いったいどうしたら…………さんざん悩んだ末、第一ターン、主人公の人称は出さずに乗り切ることにした。
早い話が性別は阿良々木愛に丸投げするということだ。優柔不断でごめんなさい。
さて、それじゃなにを書くかだけど………………あれ?
『夜分遅くにすみません。小説ってなにを書けばいいんですか?』
僕は今日登録された四つの連絡先の中から、袴田先輩のアイコンを選んで開き、質問を打ち込む。だって、「ま、わからないことがあれば俺になんでも聞いてくれ」って言ってたし。
それにしてもこんなに初歩的な質問は迷惑だっただろうか。送信ボタンを押してしまった後から怖くなってきて、冷汗が止まらない。
僕の不安を拭うように、返信はすぐやってきた。
『小説は自己表現だ! 初心者のうちは難しいことを考えず、心のままに書け!』
『心のまま、ですか』
『愛知くんは現状プロを目指しているわけでもないだろう? だったら、心の声に耳を澄ませ、感情の赴くままに書き殴ってしまえばいい』
『でも、それではちゃんとしたものにならないんじゃ』
『最初はそれでいいんだよ。喜びだったり、悲しみだったり、なんでもいい。自分の感情を言葉という形で出力することが、小説の第一歩だ。それとも、君には感情がないのかい?』
『わかりました。ありがとうございます』
『いえいえ! またどんな些細なことでも聞いてくれたまえ!』
ドンと胸を叩く袴田先輩の姿が思い浮かぶ。フッと息が漏れて、肩の力が抜けてゆく。
そうして僕は自分の心の奥底に眠る感情らしきものに耳を傾け、ケータイ画面上で指を滑らせ始めた。
古本屋に寄って小説を数冊買ってから家に帰ると、電気が付いていない。でもそれだけでは家主が不在かどうかはわからない。
ドアノブを回すと、鍵を使わずともドアが開く。どうやら母はもう仕事から帰っているようだ。
リビングには案の定、暗闇の中でノートパソコンと向き合う母の姿があった。
「ただいま、母さん」
声をかけるがいつもどおり返事はなかった。まだ仕事中なのだろう。よく知らないが、エンジニア系の仕事をしていると幼い頃に一度聞いた覚えがある。
カタカタという音を背に僕は二階の自室へと向かう。買ってきた小説にパラパラっと目を通した後、そういえば、今日は宿題の他にリレー小説を書かなければいけないのだったと思い出す。これも夕飯の前に済ませてしまおう。
勉強机に座ってケータイを開く。僕も阿良々木愛もお互い自前のパソコンを持っていないので、ケータイ版のWordアプリで編集権限を共有し、順番に文章を綴ってゆくことになった。第一走者は僕だ。
とりあえず主人公は僕が感情移入しやすいように男性にしようか。あぁでも、そうすると阿良々木愛が書くときに難しくなってしまうな。
でも僕は初心者で……あっ、阿良々木愛も同じか。いったいどうしたら…………さんざん悩んだ末、第一ターン、主人公の人称は出さずに乗り切ることにした。
早い話が性別は阿良々木愛に丸投げするということだ。優柔不断でごめんなさい。
さて、それじゃなにを書くかだけど………………あれ?
『夜分遅くにすみません。小説ってなにを書けばいいんですか?』
僕は今日登録された四つの連絡先の中から、袴田先輩のアイコンを選んで開き、質問を打ち込む。だって、「ま、わからないことがあれば俺になんでも聞いてくれ」って言ってたし。
それにしてもこんなに初歩的な質問は迷惑だっただろうか。送信ボタンを押してしまった後から怖くなってきて、冷汗が止まらない。
僕の不安を拭うように、返信はすぐやってきた。
『小説は自己表現だ! 初心者のうちは難しいことを考えず、心のままに書け!』
『心のまま、ですか』
『愛知くんは現状プロを目指しているわけでもないだろう? だったら、心の声に耳を澄ませ、感情の赴くままに書き殴ってしまえばいい』
『でも、それではちゃんとしたものにならないんじゃ』
『最初はそれでいいんだよ。喜びだったり、悲しみだったり、なんでもいい。自分の感情を言葉という形で出力することが、小説の第一歩だ。それとも、君には感情がないのかい?』
『わかりました。ありがとうございます』
『いえいえ! またどんな些細なことでも聞いてくれたまえ!』
ドンと胸を叩く袴田先輩の姿が思い浮かぶ。フッと息が漏れて、肩の力が抜けてゆく。
そうして僕は自分の心の奥底に眠る感情らしきものに耳を傾け、ケータイ画面上で指を滑らせ始めた。
