銀杏並木の毒舌な隣人たち

「有名だよ。このあたりじゃ、君の泣きはらした顔はね。最もさっき知った情報だけどね」

 猫は曖昧な言葉の後、前足で顔を洗いながら事もなげに言った。
 麻美子は呆れながらも、悲惨な境遇にいる自分を自嘲するように、皮肉を投げ返した。

「そう。なら、不幸のどん底にいる私に、何か慰めの言葉でもくれるのかしら」

「慰め? そんなもの、お腹の足しにもならないよ」

 猫は麻美子の高級なコートを値踏みするように見上げた。

「君は立派な皮を被っているけど、中身はボロボロだね。僕を見てごらん。洋服なんて一枚もない。でも、この日差しに輝く素晴らしい毛並みがある。それだけで、今日の僕は王様より贅沢なんだ」

 麻美子は、猫の言うその身体をまじまじと見つめた。

 素晴らしい毛並みどころか、実際は薄汚れて艶もなくなっている。
 おまけに、秋に染まった小さな紅葉の葉っぱまで背中にくっつけていた。

「……毛並みだけで幸せになれるなら、苦労しないわよ」

「なれるさ。君がその、脱ぎ捨てたいような自分を愛してやればね」

 猫はそれだけ言うと、あくびをして、茂みの奥へと消えていった。

(自分を、愛する……?)

 猫の不可解な言葉を頭の中で繰り返しながら、公園を後にし、一軒の駄菓子屋の前を通りかかった。