銀杏並木の毒舌な隣人たち

 池のすぐ側。石で出来たベンチに腰をかけると、茂みの隙間から一匹の猫が姿を現した。
 こちらを値踏みするように、のっそりと、警戒した足取りで近づいてくる。

 麻美子と目が合うと一度足を止め、低く「にゃあ」と鳴いた。

 それから、油断なくこちらの様子を窺いながら、トンっと彼女の座る石のベンチに飛び乗った。

 しばらくお互い、何の干渉もなく池を眺めていたが、猫は平然と、いかにも隣人のような口ぶりで話しかけてきた。

「麻美子。フラれたんだね」

 麻美子は、一瞬空気が歪むような感覚を覚えた。そして(まさかね)と自分の耳を疑い、目線だけをそっと隣の猫に向けた。

 すると猫は、口元をいじわるそうに釣り上げ、じっとこちらを見つめている。

「……」

 野太い声で、本当に猫に話しかけられているのだ。それも、この上なくデリカシーのない言葉を突きつけられていた。

 けれど、麻美子は驚くことも、腹を立てることも忘れ、ただ呆然としていた。

 本当は、誰かにこの曇った気持ちの理由を訊ねてほしかった、触れてほしかったからかもしれない。

(なんて生意気な猫なんでしょう。いいわ。猫に付き合ってあげる)

「あなた私のこと知っているの?」

 猫はニヤと笑い。ギョロッと、目を向けた。