銀杏並木の毒舌な隣人たち

 失恋の衝撃は、あまりにも激しかった。

 なぜ自分から幸せが遠ざかってしまったのか、その答えを探す気力すら、今の麻美子には残されていなかった。

 けれど、ただ惨めに泣き寝入りするなんて真っ平だった。
 そうやって、必死に強がる自分を演出していたのだ。

 やりきれない気持ちを覆い隠すように、彼女はこんな結末が訪れるとは思いもせず、ボーナスをはたいて買っておいた、外国製の少し値が張るベージュのコートを身にまとって外へ出かけた。

 裾がフレアになったタイトなパンツを合わせるのが、彼女にとっての「最高に上品な装い」であり、この季節が来るのをずっと心待ちにしていたのだった。

 自宅からほど近い田園調布をこの服で歩き、宝来公園の池を眺める。

 そうしている間だけは、まるで自分が孤独を愛する芸術家か、あるいは優雅なセレブにでもなれたような気がした。

 そうやって「上品な私」を必死に演じることで、崩れそうな心をかろうじて支えていたのだ。

 人生を楽しんでいる――。言葉で着飾ればそうなるのだろうし、周りにもそう見せているつもりだった。

 けれど、濁った水面を見つめていると、果たして本当にそうなのか、自分がしているお芝居の虚しさに、足元がぐらつくような疑問が湧いてくるのだった。